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翌日のお昼。
詩織は公人の看病ということで、学校を無理して休んだ。
詩織は家にも帰らず、そのまま病院に居座っていた。
そしてその病院の屋上。
詩織の前には同じ制服の女の子がいた。
詩織が好雄と夕子に来てもらうように頼んでいた女の子、古式ゆかりである。
「お待たせ致しました~」
「どうもありがとう……でもお昼だけど学校は?」
「それは~、詩織さんも同じではありませんか~?」
「私は別にいいけど、古式さんは別に放課後でもよかったのに」
「詩織さんにとっては~、一刻一秒を争う頼みでしょ~から~」
いつも笑顔が絶えず、マイペースの彼女。
この場でもそれは変わっていない。
「ところで頼みなんだけど……」
「それは~、聞くに及びません~」
「えっ?」
「いきさつは~、早乙女さんと夕子さんから~、お聞きしました~。たぶん~、詩織さんが~、ご所望なのは~、これでしょう~?」
そういってゆかりはどこからともなく、自分の目の前に差し出したのは懐刀。
ゆかりはそれを鞘を抜く。
刃が太陽光線に照らされ、キラリと光る。
詩織はそれを見ても表情を崩さず、平然とした表情を保つ。
一方のゆかりは笑顔のまま。
「……よくわかったわね」
「女の直感です。
詩織さんの高見さんへの想い……お二方からとくと聞かせていただきました。
そんな詩織さんが私を呼んだ……たぶん私ではないと頼めないこと。
たぶんこれだと確信しました。
高見さんが死なれたら、すぐに後を追う……間違いありませんね?」
「ええ……」
「やっぱりそうですか。私にとって、これは女の身だしなみですから」
ゆかりはまだ笑顔のまま。
しかし、いつものスローペースなのだが、口調がしっかりしたものになっていた。
その変わりようと、ゆかりの外見から想像もつかない直感の鋭さ。
詩織は押され気味だった。
「ただ、これではこの刀は貸せませんね」
「何が条件でも?」
「あなたの覚悟を拝見させていただきます」
ゆかりはそういうと、懐刀を鞘から抜き去り、素早く詩織の目の前に近寄る。
そしてその刃を詩織の右首に素早く当てる。
少しでも力が入れば頸動脈が切れんばかりに当てられている。
「!!!」
さすがの詩織もゆかりの想像外の素早さに立ったまま。
せいぜい懐刀の柄をつかんでいるのが精一杯。
それをみてゆかりがいつもの笑顔でゆっくりと尋ねる。
「高見さんのため……と言われれば、このままこの刃を詩織さんの血で染められますか?」
「………」
詩織は黙って、その刃を見つめている。
そしてゆっくりと、かつ力強い声で答えた。
「この手が古式さんの手、さっきの言葉が古式さんの言葉だったら、まっぴらごめんだわ」
「!!!」
詩織は素早くゆかりの手から懐刀を力任せに抜きとる。
そして両手で柄を持つと、刃を自分の首ののど仏の位置に向かって刃を立てる。
「この手が公人の手、さっきの言葉が公人の言葉だったら、喜んでこの刃を自分の血で真っ赤に染めてみせるわ。
公人が望めば、心臓に刺すことだって、切腹だってできる。
公人への愛を叫びながら豪快に死んでみせるわ」
そういうと詩織はゆっくりと懐刀を自分の首に刺していく。
ゆっくりと刃が首にめり込んでいく。
パチ パチ パチ パチ……
するとゆかりがゆっくりと拍手をし始めた。
「お見事です。
詩織さんの覚悟、とくと拝見させて頂きました。
私の想像以上でした。すばらしいです」
ゆかりは刀を無理矢理奪ったことは何も言わず、その後の行動を絶賛していた。
「その刀はお渡しします。
懐刀は昔は悪霊や魔物から守ると言われています。
高見さんの枕元に置けばいいと思います。
きっと高見さんは治ると思います」
ゆかりは再び詩織に近づくと刀の鞘を渡す。
「ありがとう」
「とんでもございません。
すばらしいものを見させて頂きました。
私は詩織さんがうらやましいです。
この年で命を捧げられる殿方に出会えるなんて、滅多にないとお母様もおっしゃってました」
「そう言ってくれるとうれしいわ」
「ご無事をお祈りしてます。もし、万が一のことがあったときは、うちの組で盛大なお葬式を執り行いましょう」
「余計な気遣いありがとう」
お互いににっこりと微笑みあう。
こうして、取引は終了した。