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第23話目次第25話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第1集 不良少女と呼ばれて~詩織と公人~

Written by B
「古式?なんで?今までの話に出てきてないよね?」
「そうよ。でもこればっかりは古式さん以外頼めなくて……」
「???」


翌日のお昼。
詩織は公人の看病ということで、学校を無理して休んだ。
詩織は家にも帰らず、そのまま病院に居座っていた。
そしてその病院の屋上。

詩織の前には同じ制服の女の子がいた。
詩織が好雄と夕子に来てもらうように頼んでいた女の子、古式ゆかりである。


「お待たせ致しました~」
「どうもありがとう……でもお昼だけど学校は?」
「それは~、詩織さんも同じではありませんか~?」
「私は別にいいけど、古式さんは別に放課後でもよかったのに」
「詩織さんにとっては~、一刻一秒を争う頼みでしょ~から~」

いつも笑顔が絶えず、マイペースの彼女。
この場でもそれは変わっていない。

「ところで頼みなんだけど……」
「それは~、聞くに及びません~」
「えっ?」
「いきさつは~、早乙女さんと夕子さんから~、お聞きしました~。たぶん~、詩織さんが~、ご所望なのは~、これでしょう~?」



そういってゆかりはどこからともなく、自分の目の前に差し出したのは懐刀。

ゆかりはそれを鞘を抜く。

刃が太陽光線に照らされ、キラリと光る。




「懐刀って?」
「いわゆる『ドス』ね」
「何で詩織が……」
「わからない?教えてあげるね」


詩織はそれを見ても表情を崩さず、平然とした表情を保つ。
一方のゆかりは笑顔のまま。

「……よくわかったわね」



「女の直感です。

 詩織さんの高見さんへの想い……お二方からとくと聞かせていただきました。
 そんな詩織さんが私を呼んだ……たぶん私ではないと頼めないこと。
 たぶんこれだと確信しました。

 高見さんが死なれたら、すぐに後を追う……間違いありませんね?」



「ええ……」



「やっぱりそうですか。私にとって、これは女の身だしなみですから」


ゆかりはまだ笑顔のまま。
しかし、いつものスローペースなのだが、口調がしっかりしたものになっていた。
その変わりようと、ゆかりの外見から想像もつかない直感の鋭さ。

詩織は押され気味だった。



「ただ、これではこの刀は貸せませんね」
「何が条件でも?」



「あなたの覚悟を拝見させていただきます」


ゆかりはそういうと、懐刀を鞘から抜き去り、素早く詩織の目の前に近寄る。
そしてその刃を詩織の右首に素早く当てる。
少しでも力が入れば頸動脈が切れんばかりに当てられている。

「!!!」

さすがの詩織もゆかりの想像外の素早さに立ったまま。
せいぜい懐刀の柄をつかんでいるのが精一杯。
それをみてゆかりがいつもの笑顔でゆっくりと尋ねる。


「高見さんのため……と言われれば、このままこの刃を詩織さんの血で染められますか?」


「………」


詩織は黙って、その刃を見つめている。
そしてゆっくりと、かつ力強い声で答えた。




「この手が古式さんの手、さっきの言葉が古式さんの言葉だったら、まっぴらごめんだわ」
「!!!」




詩織は素早くゆかりの手から懐刀を力任せに抜きとる。
そして両手で柄を持つと、刃を自分の首ののど仏の位置に向かって刃を立てる。




「この手が公人の手、さっきの言葉が公人の言葉だったら、喜んでこの刃を自分の血で真っ赤に染めてみせるわ。
 公人が望めば、心臓に刺すことだって、切腹だってできる。
 公人への愛を叫びながら豪快に死んでみせるわ」




そういうと詩織はゆっくりと懐刀を自分の首に刺していく。
ゆっくりと刃が首にめり込んでいく。




パチ パチ パチ パチ……



するとゆかりがゆっくりと拍手をし始めた。


「お見事です。
 詩織さんの覚悟、とくと拝見させて頂きました。
 私の想像以上でした。すばらしいです」


ゆかりは刀を無理矢理奪ったことは何も言わず、その後の行動を絶賛していた。


「その刀はお渡しします。
 懐刀は昔は悪霊や魔物から守ると言われています。
 高見さんの枕元に置けばいいと思います。
 きっと高見さんは治ると思います」


ゆかりは再び詩織に近づくと刀の鞘を渡す。


「ありがとう」
「とんでもございません。
 すばらしいものを見させて頂きました。
 私は詩織さんがうらやましいです。
 この年で命を捧げられる殿方に出会えるなんて、滅多にないとお母様もおっしゃってました」
「そう言ってくれるとうれしいわ」
「ご無事をお祈りしてます。もし、万が一のことがあったときは、うちの組で盛大なお葬式を執り行いましょう」
「余計な気遣いありがとう」


お互いににっこりと微笑みあう。
こうして、取引は終了した。



話を聞いた奈津江は呆然。

「わかった?」
「忘れてた。古式って……」
「そういう血なのよ」

詩織がにっこりとほほえんでも奈津江の反応がない。

「ところでその懐刀は?」
「私が今も持ってる」
「ええっ!」


「最初は返そうとしたんだけど、古式さんがくれたの。
 『この刀には詩織さんの魂が込められてます。そのようなものは他の人は使うべきではありません』
 だって」


「そ、そうなんだ……」
「今も服の下に隠し持ってるんだけど……見たい?」
「結構!」
To be continued
後書き 兼 言い訳
これがうちの藤崎詩織です!
ええ、だれがなんと言おうともこういう人なんです。

ようやくシリアスな詩織から、最初のはっちゃけた詩織さんが書けるところまでたどり着いて安心しているところです。

次は看病しているところかな?
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