第24話目次第26話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第1集 不良少女と呼ばれて〜詩織と公人〜

Written by B
「それからはずっと看病?」
「もちろん!」
「たしか1週間も学校休んだよね?」
「だって、公人の看病以外に大切なことなんてないから!」


それからの詩織は公人の病室に籠もりっきりだった。
昼間は公人の話し相手。
夜中はずっとは公人の額に置く濡れタオルを交換し続けていた。

詩織が「ちょっと用事があるから……」と言って一度出て行ってからは、
トイレ以外はいっさい病室から外には出なかった。

公人の母も詩織の熱心な看病ぶりに、詩織に公人の身の回りの世話をすべて任せてしまった。



放課後、公人の友達がお見舞いにやってくるが、その誰もが病室で驚いていた。

「おい公人。そこで寝てるのって……」
「ああ、詩織だけど?」
「藤崎がなんでここにいるんだ?」
「詩織は俺がここに来てからずっとこの部屋にいて俺の看病をしてくれてる」
「ほ、本当か!」
「ああ、夜中ずっと起きてるんだ、だからそっと寝かしておいてくれ」
「………」

個室である公人の隣の簡易ベッドに詩織がぐっすりと眠っていた。
制服姿のままだが、制服はしわがぐちゃぐちゃ、髪の毛もボサボサ、目の下にはくまも見えている。

「でも、すごい格好じゃないか?」
「ああ、自分でもそう思ってるんじゃないか?」
「身だしなみとかしないのかよ?」
「『そんな時間があったら公人の看病する!』だってさ」
「………」
「詩織、真面目にいってるぜ」
「信じられない……」
「そうだろうな。でも俺が知ってる藤崎詩織はこういう奴なんだよ」

公人がこういうと、お見舞いに来た人は同級生だろうと先生だろうと何も言えなくなってしまう。



「本当にトイレ以外で部屋からでなかったの?」
「ええ、本当はトイレだって部屋でしたかったぐらいなんだから」
「……それだけ高見くんの側にいたかった、ってこと?」
「そうよ」


「着替えなかったの?」
「そんな時間ないわよ」
「もしかして……下着も?」
「それだけはお母さんが着替えを持ってきてくれた」


「それじゃあ……着替えは?」
「もちろん病室の中。スカートだからパンツの着替えは楽々♪ブラはさすがに上着を脱がなきゃだから、一度脱いでから着替えたけど」

「もしかして、高見くんの前で脱いだの?」
「さすがに、背中を向けてだけどね。公人なら全部見せてもよかったけど、ほら、興奮させて余計に熱を持たせたらねぇ……でもパンツは何回も見られちゃってるわね」
「それじゃあ意味ない……」


「どうだ、良くなったか?」
「あははは、相変わらず」

好雄と夕子は毎日お見舞いにやってきていた。
面会時間の終わり頃やってきて、時間ぎりぎりまでいてくれる。
詩織はその間、夜中の看病に備えてずっと眠っていた。

「しかし詩織ちゃん、すごい格好だね……」
「朝日奈さん、女の子からみて、今の詩織の姿ってどう思う?」
「……正直に言っていい?」
「いいよ。見たまんまをいってほしい」

「こういう事情を知らなかったら……『みすぼらしい』って感じだね」
「う〜ん、俺も夕子と同じ意見だな」

「やっぱり、そう思う?俺もそう思うよ」
「えっ?」
「はぁ?公人、どういう意味だ?」

好雄と夕子は公人の言っている意味がわからない。



「いくらなんでも、普通他人に見せる格好じゃないよ。
 好きだと言っている人にならなおさら。
 俺も言ったんだよ『そんなに心配しなくてもいいから、格好ぐらい……』って

 詩織なんて言ったと思う?

 『私はこんなひどい格好でも、公人になら見せられる!いや、公人に見て欲しい!
  本当の藤崎詩織、藤崎詩織の全て、誰もしらない藤崎詩織。
  いいところ、悪いところ、綺麗な姿、みっともない姿、ひどい姿……
  みんな、みんな……公人に見て欲しいの!』

 そのひどい格好も、俺への猛烈な愛情表現なんだよ。
 そう思ったら、詩織がさらに愛しくなったよ……」



「……かなわないな……」
「……ホント、アタシじゃとても無理……」

好雄と夕子も何も言えなくなってしまう。




「ねぇ……この会話……なんで詩織が知ってるの?」
「狸寝入り」
「ええっ?」
「目が覚めたときに、上から会話が聞こえてきたのよ。私の気持ちを公人がわかってくれてとても嬉しかったけど、起きちゃうのはちょっと恥ずかしかったから……」
「………」


真夜中。

「………」

詩織は公人が眠るベッドの横で椅子に座っていた。
公人の額には濡れタオルが置かれている。

詩織はその濡れタオルに触ってみる。

「もう、熱くなってる……」

詩織は濡れタオルを持つと、部屋に備え付けの流し台に移動する。
蛇口をゆっくりとひねると、水が勢いよく流れている。

「………」

詩織は無表情のような顔をしながら濡れタオルを水に濡らす。
熱くなっていたタオルは再び冷たくなる。

それをもってベッドの横に立つと、公人の額に優しく乗せる。
詩織は椅子に座って公人の顔を見つめる。
公人はぐっすりと眠っている。



そこで詩織は眠っている公人に語りかけた。

「ごめんね。
 こんなに辛い目にあわせちゃって……

 もうあんなことしない。
 もう偽りの自分を作らない。本当の自分だけで生きていく。
 公人がいれば大丈夫、公人がわかってくれるからやっていけると思う。

 公人、お願いだから治って……
 もう私、公人のために生きるから。
 私の命は公人のもの、ううん公人の命と一つだから。

 だから、『死んだら俺の分まで生きろ』なんて言っても聞かないからね。
 公人なら『地獄に一緒についてきてくれ』って言って欲しい。
 私は覚悟できてるから……」

公人の枕元に置かれた、詩織の決意の懐刀が月明かりで少しだけ光っていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
昼間の様子を書きたかったのですが、いいシーンが全然思いつかなかったので辞めました。
まだまだ力が足りませんな。

さて、あと3話ぐらいで終わりそうです。
次に闘病の結末を書く予定です。
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