太陽の恵み、光の恵 外伝
第1集 不良少女と呼ばれて〜詩織と公人〜
その27 我慢した訳
Written by B
「ところで、高見くんが倒れたのって夏休み前でしょ?」
「そうよ」
「それから年度末までなんで高見くんと恋人にならなかったの?」
「あのとき、私と公人は心が一つになった。
でも恋人にはならなかった。ううん、なれなかった。
『伝説の樹に許してもらうまでは恋人になんてなれない』
退院直後、2人で話し合ったことはこれ。
だから、じっと2人ともじっとみそぎの時間を過ごしてた。
手なんか繋げない。
話なんてできない。
視線だって合わせられない。
伝説の樹に許してもらうまでは近づくことを避けてた。
……伝説の樹に自分たちの誠意をわかってもらえるまで」
「そうだったんだ……」
公人はクラス中の大歓声を受けながら学校に復帰した。
それと同時に詩織はひっそりと学校に戻ってきた。
詩織の外見はそれまでとは大変身していた。
制服も普通の標準服に戻り、髪型も綺麗なストレートロングに、
化粧もかなりわずかに薄くする程度。
そして詩織は貝のように静かになってしまった。
そして、授業中も休み時間も自分の席でじっとしているようになった。
学校中が詩織の急変貌に驚いたが、すぐに無視されてしまうようになった。
詩織は学校で空気のような存在になった。
「本当に無視されてたよね」
「当然よ。あれだけやっちゃったんだから」
「ずっと1人だったの?」
「早乙女君とか夕子さんは一緒にお昼を誘ったりしてくれた、あとは白雪さんとか。奈津江も誘ってくれたじゃない」
「うん、恵が用事があったときに、1人で寂しそうだったから誘ったんだけど、あれ?高見くんは?」
「さっきも言ったでしょ?自粛して私に近寄らなかった」
「あっ?そうか……」
戻ってきた公人は入院生活と熱病により体力が激減していた。
そのため、サッカー部には復帰したものの、体力の回復に専念していた。
結局元に戻ったのは制服が冬服に戻る頃になってから。
ところで、復帰後の公人の人気は急上昇した。
決して詩織との件が理由ではない。
復帰してからの公人はとてもたくましく男らしくなったとの評判がたったからだ。
たしかに、顔つきは凛々しくなり、言動や仕草もかなり大人の男らしく変貌していたのは確かだ。
スポーツが得意で、勉強も学年トップクラスの公人は元々女の子の間で人気があった。
それが、死線をさまよう病気を克服したことが、女の子の評価をさらにあげる要因になっていた。
さらに、退院してから、それまで異常なまでに関わっていた詩織と表向き一切関わらなくなったことも人気に拍車を掛けた。
公人には彼女がいないと、女の子達が勘違いしてしまったのだ。
現に公人へのラブレターの数も増え、週に5通も来たときもあった。
また、デートのお誘いもされるようになった。
公人はそれを断らず、日曜日は代わる代わる女の子と出かけるようになっていた。
しかし、公人は告白だけは即座に断った。
理由は一切告げずに。
詩織は1年の間、ずっと貝になっていた。
入学時に所属していた吹奏楽部は頻繁にさぼっていたため退部処分になっていた。
放課後はまっすく自宅に帰った。
土日でも部屋で大人しくしている時間が多くなる。
これは表向きの話。
実は裏で2人はこっそりと繋がっていた。
「なんで、高見君はデートの誘いを受けちゃったの?」
「デートのつもりはさらさら無かったみたい。友達とのお出かけのつもりだったみたいよ」
「そうだよね。詩織さん以外見ていないからね」
「本当は『俺は詩織だけを愛している』って言いたかったみたいだけど、伝説の樹に許されてなかったから、言えなかったのよ」
「女の子が誤解するのは当然か……」
「公人も反省している。『もうちょっと不親切にすればよかった』だって」
「ところで繋がってたって、どういうこと?」
「今携帯っていう便利なものがあるのよね」
「携帯?……メール?」
「そう、メールでずっと公人と話していた」
「それだったら電話しなかったの?」
「だって、会話はしないって誓ったから。だからメール」
「メールも会話も同じようなものだと思うけど……」
夏休みが終わり、二学期が始まったばかりの頃。
公人の携帯にメールが入った。
「ん?詩織からだ!」
『From:詩織
Subject:もう我慢できない
--------------------------
公人ごめん。もうだめ!爆発
しそう!お願いだから話しよ
?メールでいいから!(T_T)
ひとりは寂しいの! 』
「やっぱり……詩織は俺が守らなきゃな……」
公人は慣れない手つきで返事をだした。
『From:公人
Subject:わかった
--------------------------
詩織、1人にさせてごめんね
。これからはなんでもいいか
らメールしてよ。俺も返事だ
すから。 』
メールを送った直後、公人は隣の窓から泣き声がしたのを確かに聞いていた。
「うれしくて泣いちゃったわけ?」
「うん、夏休み終わってずっと1人で寂しくて、また挫折しそうになったの。公人に助けを求めたら、それに応えてくれた。それが嬉しくって」
「じゃあ、それからずっとメールで文通?」
「毎日してたわね。一日一通だけだけどね」
それから、2人のメールでの文通は始まった。
『From:詩織
Subject:テストいや!
--------------------------
テストなんてしたくない!も
う優等生なんてなりたくない
!o(>_<)o白紙回答して赤点と
りたい! 』
『From:公人
Subject:それはやめろ
--------------------------
赤点とったら大変だぞ、朝日
奈さんも大変そうだし。勉強
はしないよりもしたほうが後
々いいと思うよ。 』
公人の説得で詩織は渋々勉強することにした。
『From:詩織
Subject:1位とってもいい?
--------------------------
もし1位とったらまた優等生
扱いされちゃうのかな?また
みんなから特別扱いされちゃ
うのかな?それは絶対に嫌だ
! 』
『From:公人
Subject:自信ありすぎだ
--------------------------
そんなことないよ。少なくと
も俺は変わらないよ。 』
こんな公人の説得が功を奏したのか、二学期、三学期のテストで詩織は学年1位になった。
しかし、それについて驚く人はごくわずかだった。
それだけ詩織は無視された存在だった。
季節が夏から秋、冬、春へと変わる中、2人のメールも変わっていく。
『From:詩織
Subject:文化祭だね
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なんか、激しいイベントって
ないかしら?宝投げとかデモ
とか校庭から五尺玉の打ち上
げとか。(^o^) 』
『From:公人
Subject:あるか!
--------------------------
怪我人からでるから絶対に無
理だって! 』
『From:詩織
Subject:メグ
--------------------------
メグが公人と話したいって。
謝りたいみたい。メグも覚悟
決めてるみたいだから煮るな
り焼くなりして?犯してもい
いみたいだから。 』
『From:公人
Subject:Re:メグ
--------------------------
詩織、俺の本心読めるのか?
でも詩織からはっきり言われ
ると、逆にあいつに何もでき
なくなるだろ…まあ、詩織の
友達だからそれなりに対応す
るよ。 』
『From:詩織
Subject:クリスマス!
--------------------------
伊集院君から一応形式的に誘
われたけど行かない!どうせ
だれもかまってくれないし。
家でお経聞いてる! 』
『From:公人
Subject:じゃあ俺も
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友達から誘われたけど、詩織
が行かないならおれも行かな
い。さすがにお経は聞かない
けど(^_^; 』
『From:詩織
Subject:お年玉
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たくさんもらっちゃった♪ど
う運用しようかな?ライ○ド
ア株にしようかな? 』
『From:公人
Subject:つかまったぞ
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テレビみたのか?もう買えな
いって!無難に貯金したほう
がいいとおもうよ。(^_^; 』
『From:詩織
Subject:雪雪雪雪雪
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大雪だね。なんか昔を思い出
すね。一緒に雪合戦したり、
雪だるま作ったり…… 』
『From:公人
Subject:思い出した
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たしか詩織の雪玉には全部石
が入ってたよな。あとは雪だ
るまも作ってから「これを壊
すのが楽しいの!」とか言っ
て木っ端みじんに壊してたよ
な。 』
『From:詩織
Subject:寂しい
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公人とは目と鼻の先なのにこ
んなに遠いなんて辛すぎる!』
『From:公人
Subject:がんばれ
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俺も辛いんだよ。もうすぐだ
から一緒にがんばろう? 』
『From:詩織
Subject:もうすぐ
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許してくれるかな…… 』
『From:公人
Subject:Re:もうすぐ
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大丈夫だよ。 』
卒業式の日。
伝説の樹にとっては特別の日。
詩織と公人の2人はこの日までひたすら耐えていた。
そしてこの日、2人は許された……
To be continued
後書き 兼 言い訳
メール文に詩織らしさが伝わっていれば嬉しいです。
いよいよ次は1年次卒業式の日。
話としてはあと3話ぐらい。
ちょうど30話で終わらせたいと思います。