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太陽の恵み、光の恵 外伝

第1集 不良少女と呼ばれて〜詩織と公人〜

Written by B
奈津江は詩織の中学時代の核心に迫ろうとしていた。

「ところで、高見くんと離れた生活ってやっていけたの?」
「いけるわけないじゃない!」
「そのころから?」
「公人とはずっと一心同体だったのよ!それが他人行儀な対応しかできなくて……」
「一心同体は大げさだと思うけど……まあいいや」

奈津江は詩織の表現に呆れつつ、詩織らしいと思っている。



「ずっと悩んだわよ。『子供の頃はずっと一緒なのに、なんで?』って」
「それと、学校での猫かぶりのストレスもあったんでしょ?」
「ええ、『本当の私はこんなんじゃない!』って思いながら毎日ね」
「大変だったんだ。私にはわからないけど」
「だから、家では本当の自分をだそうとして……」
「本当以上になっちゃった……てことかな?」
「その通り!」

そういう詩織は両手を腰に当て、仁王立ちしている。

そして、そのころの自分の部屋について語り出した。

「まずは、清純っていうのを払拭するために、
 本棚には堂々とレディコミやAVやら官能小説なんかあったわ。
 もちろん、私が自費で買ったのよ。

 それと、お上品っていうのを潰したいから、
 部屋にはいつもハードロックがかかってたわ。
 本当はハードロックってあまり好きじゃないけど、まあ若気の至りってやつね。

 あとは、優等生っていうのを頭から消したくて、
 部屋では教科書に落書きなんかして遊んでたわ。
 人物像にちょび髭や眼鏡を書いたり、風景写真を心霊写真にしてみたり。
 宿題もやりたくなかったけど、学校での事を考えるとしなくちゃいけなくて……
 だから、ささやかな抵抗って感じね。

 部屋では努めてだらしなくしていたわ。
 ゴミは散らかし、服は脱ぎっぱなし。
 ジャージをだらしなく着こなして、寝転がってお菓子をばりぼり。

 今はそうではないけど、あのころは最低だったわね」

「仁王立ちして言うことじゃないわよ」

詩織の部屋に入ったことがある奈津江は今以上の当時の様子に少しだけ驚きつつツッコミを入れる。



「まあそうなんだけどね」

それをみた詩織は大きくため息をつく。
腰に当てていた両手はいつしか下に下がっている。
手摺りに寄りかかり、話は続く。

「隣にいた公人は大変だったと思うわよ。毎晩毎晩、隣からうるさい音楽や、不気味な物音に、怪しい声……でも、それでもずっと勉強したりして過ごしてたんだから」
「すごいね……集中していたんだろうけど」
「そうだと思うわよ……でも、成果が現れるのが遅くて……」
「いつ頃?」
「結局、公人が学年トップになったのは3年の最後の期末テスト」
「そんなに遅かったんだ……」
「1年や2年のときはまったく泣かず飛ばずで本当にむかついたわよ」


詩織の顔が険しくなる。
よほどそのときは相当怒っていたことが奈津江にもよくわかる。


「でも、それってストレスっていうか、八つ当たりに近くない?」
「半分はだらしなさで怒ったけど、もう半分はストレスの爆発ね」
「やっぱり……」



「それで、テストの順位が発表になった日の夜。いつも公人の部屋に窓から殴り込みを掛けたわ」
「もしかしてまた竹刀?」
「ええ、もちろん」


ばしっ!

『痛っ!』
『こら!今日のテストはなんだったの!』
『………』
『あのだらしない結果は……反省してるの!』
『ごめんなさい……』
『謝ればすむ話じゃないわよ!……そこに四つんばいになりなさい!』
『えっ!』
『早く!』
『……ふぅ……わかったよ……』


「毎回公人を怒鳴りつけて、床の上に四つんばいにさせたわ」
「あんた何させてたのよ」
「もちろん百叩きよ」
「はぁ、やっぱり」


ばしっ!


『うわぁ!』
『反省しなさい!』


ばしっ!


『うぎゃぁ!』
『まったく、だらしないんだから!』


ばしっ!


『ううっ……』
『こんな目にあいたくないなら、次のテストで1位をとりなさい!』


ばしっ!


『ひぃぃ!』


「………」
「公人って本当に苦痛の顔だったわ。終わった後もずっと痛がっていたわ。私はそれをみて、毎回すっきりして部屋を出て行ったの。夜もよく眠れたわ」
「高見くんは嫌がらなかったの?」
「最初はとても嫌がっていたけど、最後は素直に従うようになったわ」
「なにそれ。で、詩織はそれで満足だったの?」
「うん、毎日辛い日々での、数少ない楽しみだったのかもしれないわね……」


懐かしいような、悲しいような、辛そうな。
昔を語る詩織の表情はそんな表情をしていた。
それを見て奈津江ははこの話をやめようと別の話をしようとしたのだが……

「ねぇ、じゃあ高見くんが学年1位になったときは、高見くん、ほっとしたんじゃないの?」
「そうかもしれないわね……でも?」
「でも?」


「公人ったら、そのとき私に何も言わなかったのよ!嬉しいのと同時に、それが非常にむかついたのよ!だから、公人の部屋に撲たれに行ったのよ」


「そうなんだ……てぇ?……撲たれにぃ?」


さすがの奈津江も次から次へと出てくる話にくらくらしそうだった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
ようやく暴走し始めた、って感じでしょうか。

よくよく考えたら、このころに詩織とメグが知り合っているはず。
その辺りの話をどこに置こうか考え始めてます。

それはともかく次回も暴走話ですな。
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