「詩織、質問があるんだけど」
「何?」
「そういえば中学の時友達いたの?」
「えっ?」
「あんたの性格からして友達いなさそうなんだけど」
詩織の質問はごもっとも。
中学のときの詩織は友達ができるタイプではない。
「確かに、学校では友達は多かったわね……『学校』ではね」
「つまり本当の意味での友達は」
「いないわよ、メグ以外は」
「メグ?ああ、美樹原?」
「そう。中学の時のたった一人の親友がメグ」
メグこと美樹原愛は詩織経由でそこそこの顔見知り。
詩織とは中学からのつき合いであることも既に知っている。
「でも、なんで美樹原と友達になったの?」
「うん、私の本当の姿をメグは知ってるの」
「なるほどね」
「きっかけは中2の頃かな、日曜日にメグが突然家に遊びに来たの」
「えっ?突然?」
「もうびっくりしちゃったわよ。『詩織ちゃんを脅かそうと思って♪』とか言っちゃって」
「へぇ、ちょっと意外」
「メグって男子の前だと消極的だけど、女子の前だと結構積極的なところがあるのよね」
「大慌てじゃなかったの?」
「当然よ。あの部屋見たらたぶん絶交されると思って、リビングで紅茶飲みながら引き留めてたのよ」
「でも見ちゃったんでしょ?」
「そう。私がトイレに行ってる間に入っちゃったのよ」
「……でも、それって失礼じゃない?」
「そうね。メグが言うことには『こっそり覗こうと思ってたんだけど……』とは言ってたけど……」
「さんざん隠していた詩織にしてはショックだったんじゃない?」
「もちろん。もうメグとは終わり、って本気で思ったわよ」
「でも?違ったんでしょ?」
「そう、あの時の私もさすがに戸惑ったわ」
『……メグ?』
『詩織ちゃん……こんな人だったんだ……』
『あの、その、これは……』
『この本は団鬼○だし、裏本もたくさん、これなんか外国のハードポルノ……』
『いや、あの、その……』
「メグが団○六を知っている時点で、おかしいと気づくべきなんだけど、あの時は全然思わなかったな」
「詩織、突っ込むところが違う」
『ハードロックにヘビメタ……うわぁ!パンクまである……』
『だから、そんなに見ないで……』
『演歌に浪曲、民謡に相撲甚句まである!』
『だから、CDラックをあさらないで……』
「詩織、あんたがめちゃくちゃなのは知ってる。しかし、いったいどういうCDのチョイスしていたの?」
「いや、クラシックやポップス以外なら何でもって感じだったから……」
『部屋は汚いし、教科書は散らかってるし……ひどい……』
『………』
『詩織ちゃん……変態……』
『………』
『素敵!』
『メ、メグ?』
『嬉しいです!詩織ちゃんがこんな変態だったなんて!』
『※○▲β$*#★!』
「す、素敵?」
「びっくりしちゃったわよ。そんなこと言われて抱きつかれちゃったから、もう何がなんだか……」
「わかる気がするわ……」
「それからね。メグと親友になったのは」
「ふ〜ん、でも美樹原はなんであの時喜んだの?」
「メグの趣味って知ってるでしょ?」
「ああ、筋金入りのホラー好きでしょ?」
「ホラー好きなんてレベルじゃないのよ。ホラーマニアよマニア!」
「マニア!そこまで、どうも、熱の入れようがすごいと思ったら……」
「スプラッタ物が好きで、かなりマイナーなところまで範囲が広くて」
「うわぁ、本物だ」
「メグって、外見がああいう子供っぽい感じでしょ?だから、それとの本当の自分とのギャップに悩んでたんだって」
「そこに、もっとギャップのある詩織を知ったと」
「自分と同類がいるって事で嬉しかったんだと思うわ」
「とにかく詩織も嬉しかったんでしょ?」
「うん。私の事を受け入れてくれる子がいるって知って、本当に嬉しかったわ」
「助けられたんじゃないの?」
「もちろんよ。メグに悩みを何度も打ち明けて相談しているわ」
「そうなんだ……」
「知らない人はメグが私に相談することが多いと思うけど、全く逆。私がメグに何度も何度も相談してたのよ。だから、メグはその後の騒動の裏は全部知ってるわ」
「そうだったんだ……」
「もしメグがいなかったら……私、今、生きているかさえも怪しかったかもしれない。本当にメグに感謝してる」
「一生ものの親友ってことでしょ?私にとっての恵みたいなもんで」