「で、優等生のままきらめきに入ったんでしょ」
「ええ、しかも新入生代表として挨拶もしちゃって……いやだったわ」
「いや?」
「ええ、もうあれで私のイメージが決まっちゃったでしょ?」
「確かに、教科書的な優等生……って感じがものすごくした」
「そうでしょ?」
確かに、入学式の時の詩織は優等生だった。
綺麗なロングヘアがさらりと流しながら、壇上へと向かう詩織。
背筋を伸ばし、綺麗な歩き方。
そして、外までとおるような透き通った声で読み上げる挨拶。
その内容も、いかにも優等生らしい、真面目なもの。
そして、席に戻るときに歩きながら見せた、とびっきりの笑顔。
こんな表情をして、誰が本当の詩織を想像できるのか。
「確かに、あれで詩織の本性なんて誰もわかるわけないわよ。私だってわからなかったんだから」
「そうね……まあ、メグはおかしくてずっとクスクス笑ってたみたいだけど」
「でも、ここで殻を破ることはしなかったの?」
「えっ?」
「『これが本当の私よ!』とばかりに、大暴れしてもよかったと思うけど……」
「う〜ん、あの時の私はそんな勇気はなかったわね」
「そうか……やっぱりね……」
「正直言うと、あのときそんなことを考えることすらなかったわね」
「でも体育の時は結構やってた気がするけど、砲丸投げようとしてたし。他人の行動にぶつぶつ毒舌吐いてたし」
「あ、あれは誰も見てないからと思って……」
「まあ私はあれみて詩織の本性がわかったからね。とにかく優等生よりはマシだと思ってたわね。さすがにここまでひどいとは思わなかったけど」
「ところで詩織」
「なにかしら?」
「入学式の新入生代表の挨拶は最初からしたくなかったんでしょ?」
「ええ、そうよ」
「なんで、入試で手を抜かなかったの?」
「えっ?」
「入試で1位にならなかったらよかったのに……手を抜くぐらいできたでしょ?」
「………」
「どうしたの?」
詩織は大きなため息をひとつつく。
表情は寂しそうだ。
「それなのよね……
今の私だったら、合格ギリギリのところまで手を抜くと思う……
でもできなかった。
はっきり言って、このころの私は本当に半分優等生に染まっていた……
手を抜かなかった、じゃない。手を抜けなかった、のが本当。
あの入学式も洗脳状態での行動だったと言ってもいいかもしれない。
それが余計に辛かった。
私、このまま優等生に洗脳されちゃうのかなって……
たぶん、私の中ではどん底に突入しちゃったと思う。
悲劇の始まりよね……」
「そうだったんだ……さすがに辛いわね」
「ううん。今となっては単なる笑い話よ」
「そう……」
それでも奈津江は聞いてみる。
「ところで、今、もう一度挨拶をやり直したいとしたらどうする?」
詩織は腕を組んで目をつぶりじっくりと考える。
「まず最初は壇上まで猛ダッシュね。
私の格好は股下10何センチぐらいの超ミニスカート!
パンツはもちろん黒!
ふわっと、スカートを浮かせて、思いっきりサービスしちゃう♪
メグに頼んで、怖いフェイスペインティングもいいかも。
そして、壇上へは当然ジャンプ!
『とおっ!』とか言って壇を跳び蹴り!理事長をき添えにするのもいいわね。
挨拶はもちろん、口語。べらんめい口調がいいかもしれない。
内容なんて、適当よ。
『飲む、打つ、買う』ぐらいの三箇条を入れても面白そうね。
そして最後は壇上からジャンプ!
ミニスカートだから、サービスサービス♪
そして、帰り道では爆竹を幾つも生徒の席に投げ込んでみたいな♪」
「……やっぱり、優等生キャラのほうがいいわ」
奈津江は半分予想された回答で一応とはいえ聞いたことを後悔した。