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太陽の恵み、光の恵 外伝

第2集 乱れ桜伝説〜八重花桜梨物語〜

Written by B
「幼稚園?えらく小さいなぁ。そのころからなんかやってたのか?」
「ええ、そのころから格闘技を……」
「か、かくとぉぎぃ?」

ほむらの声が裏返った。
幼稚園から格闘技という単語に繋がるとは思っていなかったからだろう。

「そんな小さいころから?」
「そう。最初は柔道、空手。小学校に入ってからは合気道とか……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!なんかあたしの理解を超えてる!」

ほむらが両手の掌を花桜梨に向け、話を止めろという仕草をする。



「まずは整理させてくれ。八重、おまえ何ができるんだ?」
「一気に言っていい?」
「いいぜ」


「始めた順に、柔道、空手、合気道、剣道、少林寺拳法……そのぐらいかな?」


「す、すげぇ……」
「習った事はないけど、昔からテレビでは相撲、プロレス、ボクシングなんかよく見てた……」
「小学生の女が……なんかすげぇ……」
「オリンピックなんかは、レスリングや柔道が中心で見てたぐらいだから……」
「なんか信じられねぇ……」

ほむらは口をあんぐり。
花桜梨の外見からまったく想像がつかないことを次々と言われて、さすがのほむらも驚きっぱなし。



「でも、なんでそんなのばかりやってたんだ?親が格闘技好きだったとか?」
「ううん、両親は普通の公務員よ」
「じゃあなんで?」
「そうね……」

花桜梨は両肘を机につけ、あごを両手の上に乗せる。
そして、向かいのほむらの先の窓をじっと見つめながらこう言った。




「ヒーローになりたかった……それだけなんだ……」




昔を懐かしむような、穏やかな微笑みでこうつぶやいた。



「ヒーロー?ヒーローってテレビでのあれ?」
「そう、正義のヒーロー」
「ヒロインじゃなくて?」



「うん。ヒロインじゃなくてヒーロー。

 子供の頃はテレビばっかりだったけど、女の子がでてくるアニメとか興味がなかった。
 一番好きだったのは、怪獣や悪人をばったばったと倒すヒーローもの。

 子供心に『かっこいい!』って思ってね。
 それがなぜか『わたしもヒーローになりたい!』って思うようになって……

 それが格闘技を始めたきっかけ……幼稚でしょ?」



子供のような純粋な笑顔。
昔を語る花桜梨の顔はそんな表現がよく似合うようだ。



「でも、格闘技なんて知ってたの?」

「全然。
 たまたま、なんかの回で柔道着を着たヒーローがいて。
 それみて父に『あれやってみたい!』って言っちゃって。
 それが柔道を始めたきっかけ」

「でも、色々やっていたみたいだけど。それはなぜ?」

「私の親って転勤が多かったから、どこかの教室に入っても辞めるはめになって……
 でも、ヒーローになりたかったから『強くなることやりたい!』って駄々こねちゃってね。
 それで近くにある教室を探しているうちに、色々と身に付いたってわけ」

「偶然の産物ってやつか?」

「そうね。それぞれは中途半端な習得しかしてないの、3級とか2級レベルで止まっちゃった。
 でも、それが幾つもあるから相乗効果って感じかしら。
 それがその後に役に立ったのかしらね」

(なるほどなぁ。もう総合向きな土台ができてるってわけか……こりゃ茜でも勝てないわけだ……)

ほむらは花桜梨の過去を一部聞いただけで、花桜梨の強さをかいま見た気がした。



「ちなみにヒーローものが好きってことで聞くけど。
 ウル○ラマンと仮面ラ○ダーではどっちが好きだ?」

「もちろん仮面○イダーよ!
 テレビは両方見てたんだけど、感情移入できたのは仮面ライ○ーだけだった。
 なんでだろうね?
 あの孤独さが共感できたのかもしれない……」

「やっぱりな……」
To be continued
後書き 兼 言い訳
花桜梨の強さの原点です。

子供のきっかけなんて単純なもんだと思います。
ただ、それが将来に多大な影響を与えるなんて当の本人がわかるわけがありません。

次回は小学校の頃の花桜梨の話でも。
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