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太陽の恵み、光の恵 外伝

第2集 乱れ桜伝説〜八重花桜梨物語〜

Written by B
「あれ?転校続きだって、言ったよな。友達っていたのか?」
「………」
「あっ……ごめんごめん。つい聞きたくなっちゃって……」

何を言わなくなった花桜梨に気づいたほむら。
まずい質問をしたと気がつき、慌ててフォローする。
右手で頭を掻き、気まずい顔になってしまう。
花桜梨は右肘を机について、頬杖をつく。

「いいの、気にしないで。もう慣れたから……」
「ごめんな」
「確かに転校続きだから気にするのは当然よね……確かに友達は少なかった」
「そうか……」



「小学校の時は多いときで年に3回ぐらいは転校してた。
 職業柄しょうがないとは今は思っているけど、あのときは『どうして?』っていつも思ってた。」
「なるほどなぁ、あたしは転校したことないからわかんねぇけど……」


「私、人付き合いって苦手だから、友達作るのも遅い。
 転校したばかりのときは、一人でいたことなってよくあること。
 それでようやく気の合う友達ができた、というときに限って転校になって……
 高学年になるときには、もう友達を作る気もなかった。
 どうせ転校するから……」


「苦労してんだな」
「苦労じゃないわよ。私が友達を作る努力をしなかっただけ」
「そうなのか?」
「そうよ。みんなのようにすぐにたくさん友達ができれば今の私はないわよ」



「そういうものなのかなぁ……で、八重の格闘好きはどうなった?」
「相変わらずよ。友達はいなかったから一人で道場通って、一人でプロレス見て。
 両親は帰りが遅かったから、一人は慣れっこだからできたのかもしれないわね。」
「学校では格闘技の話とか出なかったのか?そこから話に入っていくって手もあったけど」
「あのころは格闘技がメジャーじゃなかった時代よ。少なくとも女の子の話にはなかったわね。でも……」
「でも?」
「一度学校で喧嘩したときがあって……」
「学校で?」


「そう。クラスの男の子が女の子をいじめててね」
「それってよくある事じゃないのか?」
「そうね。でも、その男の子は乱暴者でいつもいじめてたの」
「それもよくあることだな。それが八重とどう絡むんだ?」


「それが転校初日で……あまりに汚い言葉でいじめるからついカッとなって怒ったの。
 『いいかげんにしたら?』って。
 もちろん、その男の子は怒ったわ。『女のくせに生意気だ!』とか言って。
 そして私に殴りかかってきたわ」


「結果は?」


「気がついたら、その男の子を投げ飛ばして、投げた後に、お腹に正拳突きを食らわしてた。
 男の子は痛くてわんわん泣いちゃってたな。」
「すげぇ!さすがだな。それでどうなった?」
「その男の子はもういじめることはしなくなった。でも……」
「でも?」
「クラスで私に近づく人は誰もいなくなっちゃった」
「なんで?いじめっ子をやっつけたヒーローじゃないのか?」
「そうなんだけど、『強い』というのが過ぎて『怖い』になっちゃったみたい」
「う〜ん……ガキだからなぁ……わかる気がするなぁ……」



「結局、転校するまで誰も私に近づこうとしなかった。
 今までで一番最悪だった。
 転校が嫌だったのに、両親に『早く転校したい!』って泣いて頼んだのはこの時だけ。
 この学校ではいい思い出はまったくなかった……」

「辛かったんだな」
「ええ、慣れてたと思ったのにこんなに辛いとは思わなかった。
 もうショックだった。
 この時から、もう友達をつくる気がなくなったのね。
 小学校3年のときかな……」


(おいおい。小3で友達を作る気なくしたって!
 まあ、相当ショックだったんだろうな。
 しかし、友達がいねぇって、どんなもんだかわからないんだよな。
 だから、八重の辛さってよくわかんねぇ。
 ……あまり、友達の話に触れるのはやめよう……あたしじゃ力になれないや……)

花桜梨は昔を懐かしんでいるようで、穏やかな表情。
一方、聞き手のほむらの方が辛そうな表情をしている。

「な、なぁ、学校の話はわかったから、続きにいっていいぜ」

ほむらはこう言って話を切るしかできなかった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
小学校の時の花桜梨の話です。

花桜梨は人付き合いが苦手だからこんな感じになるだろうかと。

このお話ですが、基本的に花桜梨とほむらの会話「だけ」です。
読者は横で話を聞いている透明人間の立場で見て頂ければと。

次回は花桜梨の思春期あたりの話になるかと。
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