太陽の恵み、光の恵 外伝
第2集 乱れ桜伝説〜八重花桜梨物語〜
その10 Dropout
Written by B
「一気に話すから口を挟まないでね」
「あ、ああ……」
ほむらの表情がすこし引きつっている。
花桜梨の表情には明るさがない。
そして花桜梨の話が始まった。
「高校でも当然バレー部に入った。
地元ではいろんな全国大会にも出たことがある学校。
私をバレー部に誘ってくれた先輩もそこにいた。
入学してくれた私をとても歓迎してくれた。
でも、なにか違ってた。
なにかって、初めてあったときとなにか違ってた。
それまではとても優しくて明るい先輩だった。
でも、久しぶりにあった先輩はどことなくやさぐれてた。
今の私だったら気付いてたかもしれないけど、
あのときは久しぶりに会えたことが嬉しくてそんな感覚が鈍ってた。
ちょっと違う、それぐらいだった。
それが間違いの始まりだったのね。
高校でもバレーに夢中だった。
バレー部の友達もたくさんできて楽しい毎日だった。
でも、あの先輩は練習にたまにしか参加してなかった。
なんでかはわからなかったけど。
たぶん、その時点でもうおちこぼれてたのかもしれないわね。
それでインターハイも終わって、夏休みに入る直前。
今でもはっきりと覚えてる。
夜忘れ物をとりに部室に戻るときに、あの先輩とすれ違った。
私の顔を見てびっくりしてたけど、すぐに走っていっちゃった。
部室に入ったら驚いた。
部室が荒らされてたの。
そして、部費が入ってた金庫がこじ開けられて、中に入ってた部費がなくなってた。
金額にして……20万ぐらいかな?
それをみて思い出したのはさっきの先輩。
直感した、先輩が盗んだって。
私はすぐに学校に連絡した。
でも、そこからおかしくなった。
先輩が私が怪しいって言い出したの。
私が部室にこそこそ入っていくのを見たって。
私は直接聞いたわけじゃないけど、かなり誇張されて言い張ってたみたい。
それで一気に私が疑われ始めた。
私じゃないって、何度も言っても聞いてくれない。
先輩は他の人から人望もあったからね。
みんな信用しちゃった。
どう見ても先輩が犯人なんだけど、すれ違っただけでは証拠にならない。
それに部費ごときで指紋鑑定とかしないから証拠にもならない。
それに私にはアリバイがない。
次第に部員のほとんどがみんな怪しいって言い出した。
仲良かったチームメイトはみんな私から離れていった。
それでも私の事を信じてくれた人も1人だけいた。
同じくクラスで部活でもクラスでも仲が良かった友達。
『花桜梨はそんなことしない!』って1人で言ってくれた。
本当に嬉しかった。
本当の友達なんだなって。
でも、犯人は見つからなくて、さらに事態は悪くなる。
事件から1週間後ぐらいかな。
ちっとも犯人がみつからないのを重く見た学校が犯人が捕まるまで部活動停止を決めたの。
さすがにみんな慌てたわ。
そして私に強く言い出した、『自首しろ』って。
当然自首するつもりはまったくない。だって犯人じゃないから。
でも、バレーができないのはとても辛かった。
私にはバレーしかなかった、でもこのままだとそれも奪われてしまう。
でも、犯人は見つからない。
バレーができない生活。
もう辛くて辛くて耐えられなかった。
みんなも辛そうだった、特に私の友達は……
事件から2週間後。
もう我慢できなくなって……自首した。
もちろん嘘だけど……バレーがしたかった……それだけの一心……
友達にも言った『もうみんなの辛い顔を見るのが耐えられない……』って。
これで事件は解決、バレー部も活動を再開した。
私は当然停学処分。
2ヶ月の自宅謹慎。
夏休みはずっと自宅に籠もってた。
そして、謹慎処分も解け、学校に戻ってきた私に向けられた冷たい視線。
痛々しかったけど、それでもよかった。
私にはバレーができればそれでよかったから。
でも……
あの友達も私から離れてしまっていた。
私の呼びかけに答えてくれない。
近づこうとしたら離れてしまう。
そして私を避けるような視線。
私じゃないって何度も言ってたのに……
私を信じてくれたのに……
裏切られた
ショックだった。
もう何もかも絶望してしまった。
しばらくして、バレー部も辞めて、学校も辞めた。
そして部屋に一日中引き籠もってた。
さすがに親も見かねて「引っ越そうか?」と言ってくれた。
もうどうでもよかったから何も返事しなかった。
それでも親は「高校ぐらい卒業したほうがいいよ」って無理矢理引っ越しの準備を始めた。
そしてひびきのに引っ越しする前日。
町をふらっとしていたら見つけてしまった。
あの先輩が変な男と歩いているところ。
露出の激しい服を着て、サングラスのちゃらちゃらした男とファミレスで話してた。
「なぁ、お金はもうないのかよ。また学校からちょろまかせよ」
「え〜?もう犯人を押しつける馬鹿はいないよぉ〜?」
「なんだ〜、つまんねぇなぁ〜」
悔しかった。
なんで私はこんな人を慕ってしまったのだろう?
なんでみんなはこんな人を信じてしまったのだろう?
今だったら、確実に蹴り倒してると思うけど、
その頃の私は泣きながらその場から立ち去っただけ。
もう完全に絶望してしまった。
そしてたどり着いたのがひびきのだったの」
花桜梨は沈黙に入る。
2人の間で沈黙が走る。
「すまん……聞いちまって」
「いいの……おかげで少しすっきりした。
今までだれにも言えなかったから……」
「そうなのか?」
「留年してるのは、話してる。バレー部の事件が原因とも言ってる。
でもここまで詳しいことは誰にも言ってない」
「どうして言う気になった?」
「これまでのことを振り返ってきたら……怒りが納まらなくなって……
確かに私も馬鹿なことをした。
でも、最後に見たあの姿はどうしても許せなくて……
どうしても誰かに聞いて欲しくて……」
「わかった……これ以上は聞かない。誰にも言わねぇ」
「ありがとう……」
To be continued
後書き 兼 言い訳
あの事件の全貌です。
いや、「裏切られた」というのがなんなのかを考えてたら時間がかかりました。
いやいや難しかったです。
花桜梨がもうひびきのに来たことまでたどり着いているので、後2話ぐらいですね。