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太陽の恵み、光の恵 外伝

第2集 乱れ桜伝説〜八重花桜梨物語〜

Written by B
「しかし、元総番長で、前の学校で部費盗難……よく、うちに入れたなぁ?」

「あの校長だからよ」

「え?和美ちゃん?」

「ええ、私に言ってたわ。『儂は経歴なんぞ気にしない』だって。だからひびきのに入れてくれたと思う。他の学校だったら入れてくれないわよ」

「たしかに、和美ちゃんならありえるな……あれ?和美ちゃん、このこと知ってたのか?」

「最初から情報が入ってたみたい。校長先生は部費盗難のほうは少しだけ気にしてたみたい。『万が一、トラブルがあるとすれば盗難のほうだとおもったのじゃが……』って言ってた。総番長の件はノーマークだったみたい」

「確かに最近の話だし、転校する原因でもあるからな……」

「そうなのよね」






「しかし、入学したときはあんた暗かったなぁ」

「だって、嫌だったのを無理矢理入れさせられたんだから。でも、家にいてもしょうがないから学校に通った。それだけ」

「……ロボットみたいだな」

「ええ、ただ学校に行って、ただ家に帰るだけの、ただのロボット。それが入学してからの私だった。」

「でも、秋過ぎか?突然目立ち始めたな?あれはどういうことだ?」



「夏休み明けから色々あってね……ちょっとしたトラブルに巻き込まれたの。
 どんなトラブルかはごめんなさい……この場では言えない。
 だって、あまりいい話じゃないし、みんな傷ついちゃったから……
 でも、そこで私は目覚めたの。もう一度やってみよう、って。
 最悪な状態からでも、懸命にやり直そうとしている人達が目の前にいた。
 それをみて、今の私は逃げていたんだって、気付いた。
 だから、私ももう一度やり直してみよう。もう一度バレーを始めてみよう、そう思った。
 だから、また私はバレーを始めた」



「なるほどな。これで、心の取り柄のバレーを取り戻したってわけか」

「そう、あのときは嬉しかった!初めてバレーと出会った時みたいに夢中だった」

「でも、この前のあれで……」

「そうね。私がずっと心の底で封印していたものを無理矢理引っ張り出された」

「……ショックだったようだが、本当はどうなんだ?」



「そうね……かなりショックだった。本当にショックだった。これは誰にも言わないで欲しいんだけど……あの日の夜……死ぬつもりだった」



「えっ……」

「バイクで狂ったように山道を暴走して走り回って……そして、その勢いで道路から谷底に飛び込もうとしてた……嘘じゃない。あの夜は死に場所を探して暴走してた」

「………」

「でも、私は生きている……友達のおかげ。
 総番長の時は周りはみんな敵だった……あの事件の時はみんなに裏切られた……
 でも今は違った。私のことを本当に友達だと思ってくれる人がいた。
 私のことを本当に心配してくれる人がいた。だから、私は踏みとどまった。
 実は今までの私の生き方にそれなりのプライドがあったというのもあったんだけどね」

「そうか……」

「そして私は自分から封印を解いた。
 死ぬなんて馬鹿なことはもう考えない。一生戦い続けて死んでやる。
 もう私は普通の人間に戻れない。でも、後悔はない。これが私の運命だから。
 運命から逃げずに、運命と共に生きる。これが私の結論」

「お前、強いな……」

「そんなことない、むしろ弱い。でも、周りがいたから私はこうして生きている。それだけなの」

「なるほどな。でも、これからどうするつもりだ?」

「将来のこと?それはまだ決めてない。たぶん将来になっても戦い続けることになると思う」

「プロレスとか総合格闘技とか?」

「そ、それはないと思うけど……」






気がつけば、外も少し暗くなってきている。外も廊下も人がほとんどいない。

「長いこと話させちまって、すまんかったな」

「ううん。私も誰かに聞いて欲しかったんだと思う……とても嬉しかった」

「そうか、よかったな」

「ええ、どういたしまして」


ここでほむらがすっと立ち上がって廊下のほうに向かう。


「あれ、赤井さん。帰りなの?」

「いや、ちょっと……八重、そこで待ってろ」

「えっ?」


そういうとほむらは廊下に出て行ってしまう。


(赤井さん、何してるのかしら?)


八重は扉の向こうの様子を想像してみる。なにやらほむらがぶつぶつ話している。そしてそこにもう1人いる気配がある。誰かはわからないが……

(なんか鳥肌がたってきたんだけど……)


花桜梨はなにかの予感を感じ取っていた。



ガラガラッ!


「八重、お前は会いたくないと思うが、お前に会いたいって奴を連れてきたぞ」

「えっ?」

「………」


生徒会室の前にはひびきの高校の制服でない女の子の姿。その制服は、花桜梨の記憶の底から一気に吹き出てきた。制服だけでない、その顔にも。


「八重、間違いないな?部費の件で、お前が最後の最後まで頼りにしてた奴は」
To be continued
後書き 兼 言い訳
これで花桜梨の身の上話は終わりです。
最後の花桜梨が言わなかった話は…わかりますよね?彼女はこんなことベラベラ話す人ではないので。

そういうわけで、次でおしまいとなります。
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