太陽の恵み、光の恵 外伝
第2集 乱れ桜伝説〜八重花桜梨物語〜
その12 エピローグ
Written by B
「八重、間違いないな?部費の件で、お前が最後の最後まで頼りにしてた奴は」
「う……そ……」
花桜梨は呆然としていた。
花桜梨にとっては、記憶の片隅に追い込んだ女の子が目の前に2年ぶりに現れたのだから。
「赤井さん……もしかして……」
「ああ、こいつが突然学校にやってきたんだよ。八重に会わせてくれって。
おまえの前の学校の生徒だっていうから、話を聞いてみたら総番長の話が全然でなかったんだ。
あたしは、こいつは八重が総番長だったということを知らないな、って直感したんだ。
あたしも知りたかったし、こいつにも知ってもらうと、お前を呼んだってわけ」
「じゃあ、全部……」
「ああ、こいつの顔みりゃわかるだろ?」
彼女はかなり青い顔をし、呆然とした様子で椅子に座っている。
「さてと……準備すっか……」
そういうとほむらは壁の棚から何本かロープを持ってきた。
そして椅子に座っている女の子の両手をつかんだ。
「赤井さん!」
「黙ってろ」
驚く花桜梨を制止して、ほむらは女の子の両手を背中に回し、椅子の後ろでローブできっちり縛る。続いて、両足を、それぞれ椅子の脚に縛り付ける。これで彼女は動けない状態になっている。
「八重、好きにしていいぜ……こいつも覚悟決めてるから」
「えっ?」
「なぁ、なんでこいつが来たかわかってるのか?」
「それは……」
「お前に謝りたいからだってさ。許してくれないかもしれないけど、謝るだけさせて欲しいって」
ほむらは自分の制服のポケットから小さな鍵を取り出す。それを花桜梨に放り投げる。花桜梨はそれを顔の前でつかみ取る。そしてその鍵をみると『生徒会室』と書いてある。
「あたしは校門で待ってるから。部屋から出て行くときにそれで扉をしめてくれ」
「どういうこと?」
「そういうことだ。あと、ここでお前が何をしようとも何もなかったことにするからな」
そういうとほむらはつかつかと扉を開け、部屋から出て行ってしまった。
ほむらは校門の横で座り込み、花桜梨が来るのを待っていた。
「やりすぎたかな……でも、八重も優しすぎるからな……」
ときおり、チラチラと生徒会室のある場所をじっと見上げてはいるが、中の様子はわかるわけでもなく、ただ暇そうに座り込んでいた。
「あっ……」
しばらくすると、生徒玄関から背の高い女性がゆっくりと歩いてきた。花桜梨だった。花桜梨の背中には先程の女の子が背負われているようだが、様子が変だ。ほむらは、花桜梨の前まで走っていく。
「八重、それは……」
「ええ、彼女の願い通り……『制裁』してあげた」
「そうか……」
花桜梨の背中の女の子は意識がなくぐったりとしている。ほむらはすこし固まっている。それをみて花桜梨はくすりと笑った。
「嘘よ」
「えっ?」
「私にそんなことできるわけないじゃない。おなかに一発、気絶されて終わり」
「そうか……それで満足ならいいんだ……」
ほむらは少し心配そうな顔で花桜梨を見ている。その視線に気づいた花桜梨はほむらに向かってにこりと笑う。それをみたほむらも少し安心したようで普段の顔に戻る。
「ねぇ、赤井さん。さっき彼女になんて言ったの?」
「『おまえ、八重の18年分の怒り・憎しみを受け止められるか?』って。こいつは黙って頷いたよ」
「怯えてなかった?」
「怯えてたよ。でも、本当のお前を知った上で、頷いたんだ。文句ないだろ」
ほむらと花桜梨は校門を出て坂を下り始めた。もう、周りには生徒は誰もない。さすがの夏でも、もう空は暗くなっている。
「それで。そいつから、事情は聞いたのか?」
「まだ、『言い訳は後でするから、早く楽にして……』だって」
「そうか、で、いつ聞くんだ?」
「彼女、私の家に泊める。今晩じっくりと話を聞こうと思う」
「そうだな。久しぶりなんだもんな。意識戻ったらあやまっといてくれ」
「わかったわ」
次の日。花桜梨は風邪で学校を休んだ。
あの花桜梨が風邪なんかで休んだと言うことで一部では騒ぎになった。
しかし、ほむらだけが真実をわかっていた。たぶん、風邪なんて嘘なのだろう。学校に行くよりも過去の友達と時間を共有するほうを選んだのだろう。もちろんほむらは、そんなことを口外にすることはなく、何食わぬ顔で一日過ごしていた。
そしてさらに次の日。花桜梨は普通に登校してきた。そして放課後、花桜梨とほむらはまた生徒会室で二人きり。今度は花桜梨が買ってきた、コーヒーと缶ジュースをそれぞれ飲んでいる。
「昨日はどうしてたんだ?」
「おとといの夜からずっと彼女と過ごしてた。彼女は昨日夕方に電車で帰った」
「それで何かわかったか?」
「ええ、私がいなくなってからの学校について。
結局あの女、捕まったみたい……覚醒剤だって。たぶん一緒にいたあの男が原因だと思うわ。
それで家宅捜索したところ、部室にあった部費の袋が出てきたの。それで私の無実がようやく判明した、ってことみたい」
「ある意味ラッキーだったな。しかし、結局とことん落ちぶれたってことか、そいつは」
「そうね。その後の消息はまったく不明みたい……まあ、もうどうでもいいことだけど」
「しかし、あんたが無実だってことがわかったあとは大騒ぎだったんじゃないか?」
「そうね。結局、バレー部は強制的に廃部させられたみたい。それもそうね。自分で嘘の自首をしたけど、無実の人に罪を押しつけて自主退学させたうえに、真犯人はヤクで捕まったわけだから。
当然、部員全員が反対したけど、この前の彼女が一人でバレー部の全員を糾弾して認めさせたみたい。
『花桜梨がどんな気持ちでいたのか考えたことがある?』とかいろいろ言ったみたい」
「すごいな……一人でって、なかなかできるもんじゃないぞ」
「『最後の最後に裏切ってしまった私ができるたった一つの償い』だと思ってやったみたい」
「そうそう。そいつも裏切ったんだよな?なんでだ?追求したのか?」
「彼女から話してくれた。どうも彼女も私と共犯の疑いが広まりだしてたみたいなの。たしかにあれだけ私をかばったんだから、そう思われても仕方ないかもしれない。だから、どうしても私に近づけなかったみたい」
「……あたしは何とも言えないな……それで?」
「結局彼女もバレーができなくなったの。それでも大学でバレーを始めようと運動とか情報収集とかしてたんだって。それでバレー雑誌に私の写真を見つけたのが、今日のきっかけだって」
「えっ?バレー部って全国行ってないだろ?」
「インターハイの地区大会特集だって。今回優勝した学校が一番苦戦した相手って事で写真が載ったみたい」
「そうだっけ?そんな話聞かなかったけど」
「苦戦なんて全然よ。私が途中で出たときにこっちがちょっとリードしただけ。でも向こうにとっては苦戦だったみたい」
「ふ〜ん……あっ、話がそれちまったな。それで雑誌であんたを見つけたって?」
「それで、私がバレーを続けていることがわかって、うれしいと思うのと同時に謝りたいと思ったんだって」
「それでここを調べていきなりやってきたってことだな」
「そういうこと」
「それで、おまえは彼女を許したのか?」
「許す許さないなんて気持ちは私にはない。私にとっては大切な友達の一人なのには変わりないから。そう言ったら、彼女泣いてた」
「……おまえもつくづくお人好しだな」
「そう思う?私もそう思う。でも私ってずっとひとりぼっちで、ああいう優しさって感じたことがないから弱くて……」
「そうか……」
「また一人友達が戻ってきた。赤井さんのおかげ。ほんとうにありがとう」
「そうか?あたしは自分が思うことをやっただけだ」
こうして花桜梨の身の上話に関わる話はこれで終わりとなった。
そして花桜梨は生徒会室から出ていく、そこにはバレー部のユニフォーム姿の女の子が何人も立っていた。
「キャプテン、待ってましたよ。早く来てくださいよ」
「えっ?どうしたの?」
「前の部長が見学に来てるんです!キャプテン目当てみたいですよ」
「そうなの!急いで行かなきゃ!」
花桜梨は後輩らしき女の子達と一緒に走っていった。
「………」
それを後ろでほむらはじっとみていった。
「ひとりぼっちだってさ……八重、勘違いしてないか?今のおまえの周りにはたくさん人がいるじゃないか。何かあっても手を差し出してくれる本物の仲間と友達がな」
ほむらはそうつぶやきながら笑っていた。
End
後書き 兼 言い訳
はぁ、ようやく終わった。
最後はちょっと迷っちゃったんですよね。まあたいしたことではないですけど。
これで過去の花桜梨に関するお話はおしまいです。
とは言っても、これからの花桜梨はまだまだこれでおとなしくならないですからね、たぶん。