太陽の恵み、光の恵 外伝
第2集 乱れ桜伝説〜八重花桜梨物語〜
その3 Delinquent
Written by B
「ところで、いつから番長になったんだ?」
「いつから番長になったって日はないんだけど、徐々に不良になっていったのは確かね」
「それはいつ頃だ?」
「小学校……5年の終わりぐらいかしら?」
「かなり早くないか?」
「でも小学校の不良なんて、わがままなガキと同じよ。今思えばね」
「どういうことだ?」
「授業中に大騒ぎしたり、人の給食を無理矢理奪ったり、先生にたてついたり。
ただの暴れん坊がすることとたいして変わりないわ。
不良と言うほどのことなんて、しないわよ。大抵はね」
「確かにな。あたしの周りにもいたけど、所詮その程度だよな」
「でも、私はそんなことはしなかった」
「えっ?」
「だって、先生にたてつくだけ無駄じゃない。ただの自己満足よ」
「じゃあ、あんたは何やってたんだ?」
「夜遊び」
「夜遊び?」
「ええ、夜遊び」
「よ、夜遊びって、夜に男を誘って、それからホテルでそのあの……」
ほむらの顔がかなり赤くなっている。
それをみて花桜梨がクスクス笑う。
「赤井さん。それは誤解よ。
夜遅くまで繁華街をぶらぶらしてただけ。
ゲームセンターとか、ファーストフードとか。
街の明るいところをぶらぶら歩いて、時には地べたに座り込んで、ただじっと通り過ぎる人を見る。
1人でいるわけだから、やることはそんなものよ」
「親はどうだったんだ?あたしの親も放任主義だけど、夜遅くに帰ることだけは怒ったな」
ほむらの質問に、突然花桜梨の笑みが消えた。
冷たい口調で答え始めた。
「全然。
心配もしてくれなかった。
うちの両親は帰りも遅いし、朝は早いから家でもあまり会わない。
だから、私がどうしようとも気にしてくれない。
夜12時過ぎて帰ってきても、一切怒らなかった」
「………」
「私、小学生よ!
夜まで繁華街とかにいて危ないと思わないの?
連絡もつけられない状態で心配にならないの?
家に帰ってきても『おかえり』の一言もないのよ!
『あら?帰ってたの?』って感じで!
私はあれで何度も傷ついたのよ!
いくらなんでもひどすぎる!」
ダンッ!
「うわぁ!」
「あっ、ごめんなさい……つい、力が……」
花桜梨は右拳を机に思いきりたたきつけた。
ほむらはそれに驚いてすこし後ずさりした。
それをみて花桜梨はようやく我に返ったようで、慌てて拳を引っ込める。
「でも、あんたがグレたくなるのはよぉ〜っくわかった」
「でしょ?あの頃はとにかく両親が嫌いで嫌いでしょうがなかった」
「辛かったんだな……」
「家に帰りたくなかった……というのもあったかもしれない。
でも、帰る場所はあそこしかない。
だから、夜帰る時間が遅くなっていったのだと思う」
「なるほどな……で、今は?」
「一応、心配はしてくれるようになった。
私も携帯も持つようになったからね。
でも……あの頃のことを許したわけじゃない。
今でもあの頃の態度が許せない。
だから、両親もあまり私にいろいろ言えないみたい」
「まあな、あんたからすれば『何を今さら?』って事だろ?」
「そのとおりね」
To be continued
後書き 兼 言い訳
花桜梨がグレた訳です。
親と花桜梨の微妙な関係は本編第28部でもちらっと書きましたが冷え切ってます。
あの頃、花桜梨さんは相当傷ついたと思います。
次回から花桜梨の番長への道が始まるのかな?