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太陽の恵み、光の恵 外伝

第2集 乱れ桜伝説〜八重花桜梨物語〜

Written by B
「香港マフィア?い、今そういったよな?」
「ええ、香港マフィアにスカウトされたの」
「はぁ……」

ほむらは口をあんぐり。
椅子の背もたれにぐったりと体を預けてしまっている。

一方の花桜梨は無表情。
両肘を机につけ、両手を組んでじっとしている。

「どうしておまえを?」
「わからない。ただ、私の評判を聞きつけたのは確か」
「きっかけは?」
「夜、1人で新宿の繁華街をぶらぶらしていたら、誘ってきたの」
「1人?あれ?さんざん付きまとっていた、他の奴らは?」
「さぁ?あんな人たちの事なんて知らない」
「あっ、そうか。で、そのマフィアの男は?」
「少し片言の日本語で『銃に興味はないか?』って言うから、ついて行ったの」

いつの間にか真剣な表情に戻っていたほむらが少し首をかしげる。

「……珍しいな」
「なんで?」
「だって、あれだけ疑い深いお前がほいほいついて行くのが信じられなくてな」
「私も最初はそう思った。
 でも、その男。マフィアのくせに銃とか刀とか持っていなさそうだったし、力も強くなさそうだった。
 それにマフィアのアジトに来ても罠が仕掛けられた様子もなかったから」
「……ちゃんと見てるんだな」
「ええ、もちろん」

花桜梨は少しだけくすっと笑った。




「それで、アジトに入って何言われたんだ?」
「『仲間にならないか?』だって」
「……受けたのか?」




「二つ返事で受けたわ」




バタン!


「なんだって!」

ほむらが顔を真っ赤にして机をおもいきり叩きながら立ち上がった。

「お、おまえ……なんで、マフィアの一員なんかに……」

ほむらの体はブルブルと震えていた。
しかし、花桜梨は冷静だった。


「断る理由がなかったから」


「えっ……」
「ただただ退屈な毎日。変化も刺激もない。このままでも希望はない。
 断ってこんな生活を送っても、何もいいことはない。
 だったら、変化を求めてみる。
 それだけの話」

「うっ……」
「赤井さんの言いたいことはわかる。
 でも、そのころの私なんて社会の善悪なんでどうでもよかった。
 そんなことに目を向けている余裕もなかったの」

「………」

ほむらは黙ってゆっくりと椅子に腰を下ろした。




花桜梨は話を続けた。



「私はその日から1週間。見習いってことで組織に入った。
 いろいろなことを教えてもらった。
 裏社会の実情、勢力図、なわばり。
 マフィアの組織、行動内容、掟。
 いろいろな種類の銃の使い方。
 煙幕・爆竹から、手榴弾・ダイナマイトの使い方。
 大麻、マリファナなんかの麻薬の知識、見分け方、隠し方、相場。
 そして人間の急所、殺しのテクニック」



「………」



「信じられないかもしれないけど、1週間が楽しかった。
 新しい刺激が次々に入ってくる。
 善悪なんて関係なかった。必死に覚えていったな」



「………」



「そして1週間後、アジトのボスに言われたわ。
 『試しに殺しをやってみるか?』って」



「!!!」



「殺しってところで少し躊躇したけど、そのころの私は麻痺してたのよね。即、OKしたわ」



「お、お、おまえ……」



ほむらの顔がいつの間にか真っ青になっていた。
さらにほむらの体がまたもやブルブルと震えている。
しかし、今のは先ほどの震えと意味が違うようだ。




「結論を言っておく。
 私、人殺しはしてないわ。
 実行する直前に、組織がなくなったの」

「……えっ?」

「ちゃんというと、私が殺しを決行する当日の朝。
 アジトに行ったら、荒らされてた。
 武器とか金とか麻薬とかなくなっていて、残っているのは血の跡だけ」

「………」

「たぶん、他の組織に襲撃されて殲滅されたのだと思う。
 私はしょうがないから、そのまま家に帰ったわ」

「………」

「次の日新聞を見て呆れた。
 だって、その組織、マフィアの組織の末端の末端に位置するところなんだって。
 そんなところである意味浮かれていた私が馬鹿馬鹿しくなった。
 それが番長やめる引き金になったの」

「………」

ほむらは再び口をぽかんと開けたまま。
震えもとまっているが、体全体が固まっているように見える。




それでもほむらは口を少しだけ開く。

「ち、ちなみに、誰を……」


「都知事」


「!!!」


「まあ、マフィアならすぐに考える安直な標的ね。
 ただ、計画はかなり綿密でかなり練り込まれたものだった。
 失敗したときに逃げ道まで用意してあった。
 私も正直に言うと……自信あった。
 今、同じことを実行したとしても、自信はある」
「………」

「でも、よかった。
 もし、実行していたら、成功失敗関係なく、私は太陽を二度と見られない人間になっていたから」
「………」




「この話はもうおしまいでいいかしら?」

「あ、ああ……」

ほむらは依然として固まったまま。
普通の表情をしている花桜梨とは正反対。

「あっ、そうだ、最後に一つだけ教えてあげる。
 たぶん、赤井さんがマフィアって言葉に敏感に反応したことに関係するから」

「???」

「私が入ってたマフィア……『D・スネークス』って名前なの」

「!!!」

「これで本当にこの話はおしまい。次行くわね……」


顔が真っ青のほむらを横目に花桜梨は話を続けた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
3641208話参照ですね。

ええ、花桜梨さん。すごい人なんです。
たぶん、今のほうがすごい

次話で花桜梨さん正式に総番長をやめることになります。
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