太陽の恵み、光の恵 外伝
第2集 乱れ桜伝説〜八重花桜梨物語〜
その8 Depression
Written by B
「それで、マフィアの大きさを感じたらなんか今の自分が馬鹿馬鹿しくなってきちゃったの」
「……それで、総番長をやめたと」
「総番長なんて、マフィアにとってみたら幼稚園児と同じよ。そう思ったらもう嫌で嫌で……」
「どうやめたんだ?」
「いや、一言。『辞めたから』って言って、おしまい」
「それだけ?」
「ええ、関東総番長の印なんてないから、自分が辞めるといったらそれで終わりなの」
「なるほどな……」
「当然周りは突然だからびっくりしてたみたい。何か言って止めようとしてたみたいだけど、無視して家に帰っちゃた」
「でも、それだと、家まで追いかける奴もいるんじゃないのか?」
「ううん。そこは準備万端」
「えっ?」
「その翌日に九州に引っ越しちゃった」
「えっ?九州?えらく遠いな」
「実は引っ越しは偶然。でも関東から離れていたからそれは好都合だった」
「ふ〜ん」
「あとで聞いた話だけど、みんな必死に私を捜していたみたい。
でも、そんな探し方をしても見つかるわけがない。
だから、1週間ぐらいで私のことを諦めたみたい。
でも、そこからがひと騒動だったみたいね。
だって、次の関東総番長がいないんだから。
私の後を狙う人で強い人はいない。
先代の茜ちゃんのお兄さんも第一線から引退しちゃったし。
結局、雑魚同士の争い以上のレベルにはならなかった。
私が辞めてから、今まで関東総番長になった人は誰もいないんだって」
「そうなんだ……」
「それで、引っ越したあとはどうだったんだ?辞めてなにやったんだ?」
「鬱になっちゃった」
「えっ?うつ?うつって、あの難しい漢字の?」
「そう、あの鬱。
まったくやる気がなくなり、学校でもぼぉ〜っとしているだけ。
特に朝はまったくやる気がなくなってた。
何も興味もなくなってた。もう腑抜け状態。
実際の鬱はこんなもんじゃなくて、自殺願望とかあるみたいだけど、
幸いなことに私はそんなことがなかった」
「……信じられないな」
「今振り返ると、私でも驚いたわ。
あんなことでも、実は私の生き甲斐のようなものだったのかもしれないってことにね」
「それが毎日だったからな」
「そうね。とにかく、私は何か欲しかった。それってある意味危険な状態だったと思う」
「どうしてなんだ?」
「だって、目の前に何かぶら下がったらすぐに食いつく状態だったから。
もう一度マフィアが現れたら今度こそ抜けられなかった。
もしヤクザとかだったら、今頃都会の歓楽街でウリやってた。
ヤクとか売られたらハマってたと思う」
「……危ないな」
「ええ、でも私はいまこうして赤井さんの前にいる。だから、本当に感謝してる」
「それが……あれか?」
「ええ、私を人間に戻してくれたもの……それがバレーボール」
To be continued
後書き 兼 言い訳
総番長を辞めてからの話です。
花桜梨さんのことなので、辞めるときはこんなことではないかと思います。
次はいよいよ花桜梨のバレーボールとの出会いになります。
こっちは部費事件があるので、まだ先になるかなぁ?