次の週。
予定通り、公一は光を屋上に呼び出した。
「光……」
「公一君……」
「約束どおり……全てを話す……」
「わかった……返事を聞かせて……」
そして公一は全てを話し出した。
「俺は……子供の頃から……光の事が好きだ」
「本当!本当なの?」
「ああ……この言葉に嘘はない」
「嬉しい……」
「……でもな……」
「えっ?」
「俺は……光とは恋人になれない……」
「えっ……」
「俺には婚約者がいるんだ……」
光が天国から地獄に落とされた瞬間だった。
The third story
Written by B
「婚約者……嘘でしょ?」
「嘘じゃない……親たちが決めた婚約者だ……」
「うそ……」
「親の決めたことには逆らえない……それが掟だから……」
「……」
光は信じられなかった。
公一は確かに自分の事を好きだと言ってくれた。
しかし、恋人にはなれない。
自分とは違う婚約者がいるなんて、全く知らなかったから。
「どうして?どうして教えてくれなかったの?」
「教えられるか!」
「えっ?」
「俺は光が好きだ……でも、光と結ばれないなんて……考えたくなかった」
「……」
「俺だって光と結ばれたい……でもどうあがいても無理なんだ……」
「公一……」
「光、おまえに紹介したい人がいる」
「もしかして……」
「ああ、俺の婚約者だ……」
「なんで!なんでそんな人を私に紹介するのよ!」
「どうしても、光には言わないといけないことが、まだあるんだ」
「えっ?」
「お〜い、もういいよ、来てくれ……」
「……」
屋上の階段から一人の女性が現れる。
その人は……
「琴子!」
「……」
「なんで琴子が……!!!……まさか!」
「そのまさかだ……」
「うそ……」
「俺の婚約者は……琴子なんだ……」
「……」
「光、私に質問したとき、こう答えたよね『私の答えはあとで言う』って」
「……」
「光への答えはこれ……私たち婚約者だったの……」
「……」
「ばかっ!」
ぱちん!
光が琴子に対して平手打ちをお見舞いした。
「琴子の……琴子の馬鹿!」
ぱちん!
「何よ!入学したときは、何でもないふりをして」
ぱちん!
「本当は婚約者なんて隠していたんじゃないの!」
ぱちん!
「私の気持ちを知っておきながら……ひどい!ひどすぎるよ!」
ぱちん!
光は琴子に何発も平手打ちを打つ。
琴子は黙って、それを受け続ける。
やがて、琴子がぽつりぽつりと語りだす。
「私だって……辛いのよ……」
「えっ……」
「光が公一の事を好きだということはずっと知っているわ」
「……」
「でも、公一が私の婚約者だと知ったのは、初めてあってからしばらくしてからよ」
「……」
「ショックだった……光が好きな人を私が奪うことになるのだから……」
「……」
「私だって、光と公一が結ばれて欲しい……だからずっと辛かった……」
「……」
「このままだと……公一の18歳の誕生日に私たちは結婚することになる……」
「えっ!……じゃあ、あの噂……」
「ええ、あの噂……本当なの……」
「どうして?どうしてもう結婚しなくちゃいけないの!」
「……」
「いくらなんでも、早すぎるよ!ねぇ、どういうことなの?」
「琴子……いよいよだな……」
「ええ……わかったわ……」
「ねぇ、どうしたの?」
「光、俺と琴子が光に言わなくてはいけないことがある」
「なによ……まだあるの……」
「俺が光と結婚できず、琴子と結婚できるわけだ……」
「!」
「なあ、光。おまえの父さんが大学で西洋の妖怪について調べてるな?」
「うん……」
「光の父さんが一番詳しい妖怪はなんだか知ってるな?」
「うん、確かバンパイアだったような……!!!……」
「わかったようなだ……」
「うそ……」
「そうだ……俺と琴子……バンパイアなんだ……」
「そんな……嘘でしょ?……嘘だって言ってよ!」
「……今から証拠を見せる……琴子、いくぞ……」
「ええ……光、私たちの姿……しっかりと見て……」
そういうと公一と琴子は空へと舞い上がった。
そして円を描くように、屋上の上空を飛行する。
いきなりの出来事に光は声も出ない。
二人は空中で停止したかと思うと、なにやら呪文を唱え始めた。
すると、二人のそれぞれの目の前に光の玉が現れた。
そしてその玉は空高く放たれていった。
想像していなかった光景に光はただ見つめるしかなかった。
そして、公一と琴子は再び光の前に降り立った。
光はまだ呆然としてるようだ
「光……見てくれたよな……」
「うん……」
「私たちがバンパイアだということ……わかってくれた?」
「うん……」
「人間とバンパイアは結婚できない……それが掟なんだ」
「本当のことを言うと……私たちの正体……光に知って欲しくなかった」
「……」
「光とは人間としてつきあいたかった……でも、こうなった以上正体を明かすしかなかった」
「いままでだましていてごめん、光……」
「……」
二人の目にはいつの間に涙があふれていた……
「そんな、バンパイアだなんて……」
「結婚するからには、もう光の側にはいられないな……」
「えっ……」
「辛すぎるわ、光を裏切って、そのまま光側にいるのが……」
「琴子……」
「ごめん……さよなら!」
「さよなら、光!」
二人は突然そう言うと空へと舞い上がり学校から飛び去ってしまった。
「公一くん……琴子……行っちゃった……」
二人は学校から離れた神社に降り立った。
「琴子……これでいいのか……」
「わからないわ……でも、言うべき事は言ったと思う……」
「そうだな……」
「もう、光の前にはいられないな……」
「光をだまし、裏切ったんですもの……」
「辛いな……」
「公一」
「なんだ、琴子?」
「18歳の誕生日……私に遠慮しなくていいから……結婚相手に私を指名して」
「えっ!……ちょっと待てよ、指名しなくても俺たちは……」
「わかってる……でも、私はそうして欲しいの……」
「……」
「女って……たとえ決められた結婚でも……その相手に愛して欲しいの……」
「琴子……」
「それが表面上の愛でも……女はそんな愛でも欲しいのよ……」
「……」
「この結婚だって……上から決められた形は嫌なの……」
「じゃあ……」
琴子は本当は「好き」だと本心を言いたかった。
しかし、なかなか言えなかった。
光の事を考えるとどうしても言えなかった。
琴子の言葉は、光に対する気遣いだった。
しかし、それも限界だった。
自分の中からあふれる想いをおさえることができなくなった。
「お願い、公一……好きだから結婚するということにして欲しいの……」
「琴子……」
「そして、光を愛する気持ちの何十分の一でいい……私を愛して欲しいの!」
「……」
「私は光の何十分の一かもしれないけど……公一が好きなの!」
「わかった……覚悟決めた……誕生日には琴子を指名する……」
「ありがとう、公一」
そして二人の距離が近づく。
「俺……光の分まで、琴子を愛するよ……」
「嬉しい……」
「琴子……愛してるよ」
「公一……愛してる」
そして二人の影がひとつに重なる。
初めてのキスの味は涙の味だった……
そして、屋上に一人残された光は……
「どうして……どうして、私をおいていくの……」
いまだ、呆然と立っていた。
「なんで……どうして……ど…う……し……て……」
光は崩れるようにして倒れてしまう。
倒れて気を失っている光が発見されたのはそれから1時間後だった。
To be continued.
後書き 兼 言い訳
第3話、起承転結の「転」ですね。
公一と琴子は光に全てを打ち明けました。
そして光から去ってしまいました。
3人それぞれ複雑な心境です。
そして複雑な三角関係、色々な想いがめぐります。
このまま公一と琴子が結婚するのか?
それとも大どんでん返しがあるのか?
はたまた、想像もつかない悲劇が待っているのか?
倒れた光がカギです。次回公開までいろいろ想像してくださいな。