第3話目次第5話
深夜。
公一は家に帰ってきた。

屋上から琴子と飛び出してからずっと神社にいた。

何かするのではなく。
何か語るわけでもなく。
何かを聞くわけでもない。

ただそこで時が過ぎるのを待っていただけだった。

大切な女性を失った悲しみを癒すだけのために。

しかし、そんなことでは癒えるわけはなかった。


そして玄関にて。
公一の母がなにやら忙しそうにしていた。

「ただいま……」
「公一!どこ行ってたの!」
「ごめん……」
「それよりも大変よ!」
「えっ?」


「光ちゃんが原因不明の熱病で倒れたのよ!」


「なんだって……」

Vampire

Written by B
光の家。
公一はさっそく母と一緒に来ていた。
妖怪研究家でもある光の父が迎えてくれた。

「公一君!」
「光は?」
「今は部屋のベッドで寝かしている」
「いつ光は?」

「学校の屋上だそうだ」
「えっ!」
「なんだい?公一君は知らなかったのかい?」
「はい……」
「公一君は光と一緒じゃなかったのかい?」

「……」
「公一君……どうしたんだい?」

「おじさん……話があります……いいですか?」
「わかった……話を聞こう……」



公一は光の父に今日の出来事を全て話した。

「……そうか、光に全てを話したのか……」
「はい……人間ではないことも、結婚できないことも……」
「……」
「俺、そこにはいられなくて、屋上から飛び立って、神社でずっと……」
「……」
「……」

「公一君。辛い役目を負わせてしまったね……」
「……」
「いつか私が話さなくてはいけないのを……すまない」
「いいんです……もういいんです……」



「ところで、光の病気は……」
「君のお父さんにも見てもらっているがさっぱり治らない……」
「父の治療呪文でも無理ですか……」

ちなみに公一の父は治療呪文が一番の得意分野である。

「病院は……」
「どう考えても病院では無理だ」
「えっ?」
「顔は青ざめ、体が動かない、意識は朦朧、でも熱は41度。どう考えても普通の病気じゃない」
「じゃあどうしたら……」



「光!」

突然琴子が部屋に入ってきた。

「琴子!いったい……」
「お母さんから聞いたの。ところで光は?」
「……あまりよくない……」
「そんな……」
「早くしないと命が……」
「……」



「もしかして、私たちのせいで……」
「琴子……」
「私が、秘密を、全てを光に話したばっかりに……」
「そんなことないよ」
「違う!光はショックだったのよ!それで体が精神的ショックで……」
「琴子……」
「私……取り返しのつかないことをしてしまった!」

取り乱す琴子。
それを止められない公一。
しかし

「違うよ、水無月さん」
「おじさま……」

光の父が止めた。



「水無月さん。光にはかわいそうだが、これは運命なんだ」
「……」
「私だって公一君ほどの素敵な男性は見たことない。私だって今でも光の婿に欲しいぐらいだ」
「おじさん……」
「でもな、運命には逆らえない……神様でもならない限り……」
「……」


「私たちができるのは、運命を受け入れること。そこから何ができるかなんだ……」
「おじさん……」
「だから公一君。水無月さんを大切にしてあげなさい。そこから切り開いていくものだよ」
「……」
「水無月さん。光の分まで、公一くんを愛してあげなさい。それが光にできる唯一の償いだよ」
「わかりました、おじさま……」



「公一。あっ、ここにいたか。お前に話がある」

公二の父が現れた。

「なんだい父さん」
「光さんの病気だがな……私ではもうどうしようもない」
「!!!」
「じゃあ、光はもう……」
「琴子!」
「いや、たった一つだけある」
「父さんその方法とは!」


「マンドラゴラの草で作った薬草ならなんとなるかもしれん……」


「マンドラゴラって……」
「幻の薬草……」
「私も聞いたことがある……万能の治療薬になる草だな」
「父さん!マンドラゴラってどこにあるんだよ!」


「北海道の大雪山のどこかにある……」


「大雪山のどこかって……広すぎるじゃない!」
「それでもこの時期でも生えているから、生えていればすぐに見つかると聞いている」
「……」
「それでも広すぎるわ……」
「確かに寒いからな……下手をすると体がもつか……」
「それでも見つけられるか、公一」


「……光のためなら命をかけてでも見つけてみせます……」



「公一!私も……」
「駄目だ。俺一人で行く……行かせてくれ」
「なぜ!」
「もう俺にはこうするしか光への想いが表せないんだ……」
「公一……」
「それに下手をすると凍死だって考えられる……そんなところに琴子は連れていけない……」
「……」
「だから……」
「わかったわ……何もいわない……」


「じゃあ、行ってくるよ」
「公一、気をつけてな」
「光は私が見てるから安心しなさい」
「公一……」
「琴子、光の側にいてやれ……」
「うん……」

公一は北海道へ向けて飛び立った。

「公一……やっぱり……」



光の部屋。
光は眠ったまま。なにも反応がない。いやあるのかよくわからない。

そこに琴子が入ってきた。

「光……」

琴子はベッドに近づき、光の手を取る。
光の手は燃えるように熱かった。

琴子は光に語り始めた。

「光、今公一が光のために幻の薬草を探しに行ったわ……」
「……」
「大丈夫、きっと見つけて戻ってくるから……」
「……」
「また公一のために笑顔を見せて、光……」

琴子は語るが、光は何も反応がない。



それでも琴子は語りかける。

「光、やっぱりあなたに勝てなかった……」

「光、正直に言うわね……私も公一の事が好き。どうしようもないぐらい好き」

「公一への想いは光にだって負けてない……そう思ってた……」

「でも、公一はそれでも光しか見てなかった……」

「確かに公一は、もうすぐ結婚相手に私を指名してくれると思うわ……でも」

「たとえ私と結婚しても……やっぱり公一は光が好きなのよ……」



一方公一は全速力で北海道の大雪山にたどり着いた。
辺り一面雪景色。
天気も良くなく温度も寒い。

「いったいマンドラゴラってどこに……」

必死に探し出す公一。
しかしなかなか見つからない。
「幻の薬草」というだけある。極少数しか生息していないのだから。

吹雪も吹いてきた。
だんだん寒くなる。公一から体温を奪っていく。
公一の動きが悪くなる。

「ちくしょう……どこに……」



光の部屋では琴子がまだ語り続けていた。

「公一は全身全霊をかけて光を愛しているの……」

「そうでなければ……命をかけて薬草なんて探さないわ……」

「私がどんなに愛しても……公一は光しか愛してくれない……私はそのおこぼれをもらうだけ……」

「私はそれでもいい……公一が幸せならそれでも……」

「だからお願い……目を覚まして……」

琴子の目にはいつしか涙があふれていた



大雪山。
公一は雪の中を倒れていた。
あまりの寒さに体が動かなくなってしまったのだ。

「だめか……見つからないのか……」

意識も朦朧としている。

「ごめん……光……俺、光より先に死ぬかもしれない……」
「だめだ……もう何も見えない……何も聞こえない……」

やがて公一の記憶が走馬燈のように走り抜ける。

『バカっていう方がバカなんだよ〜!うわ〜ん!』
「あっ……」

『バカ……急に引っ越しちゃって、私、すごく悲しかったんだから』
「……」

『はぐれないように手つなごう!昔みたいにさあ』
「光……」


『だって……私、公一くんの事がずっと好きだから!』
「光!」


公一はがばっと体を起こした。

「そうだ、俺は……こんなところで死ぬわけにはいかないんだ……」
「光……俺の光……絶対に見つけるからな……」
「俺が死ぬのは……マンドラゴラを光に渡してからだ……」

公一はふらふらと歩き出した。



それから30分後。
探し出してから4時間ぐらい。
まだ見つからない。

公一はもはや気力だけでマンドラゴラを探している。

「絶対に探し出す……絶対に……光のために……」

すると公一の視界に緑色した物体が見え始めた。

「あれか?」

公一は近づく、するとその物体は植物のような形状だった。

「もしかして……」

公一は力を振り絞って歩き出す。その物体は……

「マンドラゴラだ……遂に見つけた……」

間違いなくマンドラゴラだった。

「待ってろよ……今いくからな、光……」

公一はその草を引っこ抜き大事そうにリュックにしまって飛び立った。



真夜中の光の家では公二の帰りを待っていた。

「公一は遅いな……」
「さすがの公二君でも……」
「無理だったのか……」
「公一……」

ぴんぽ〜ん!

「公一だわ!間違いない!」
「そうだな!急ごう!」

玄関の扉を開ける。

「ただいま……」
「公一……」

そこには顔が真っ青な公二が立っていた。



「これを……」
「おお!マンドラゴラではないか!」
「……」
「すごい!間違いない!早速薬を作ろう!」
「……」
「公一、ありがとう……公一?……どうしたの?」

「光……ひかり……ひ…か……り……」

ばたっ!

公一が琴子の体に倒れ込んだ。
公一はほとんど全ての力を使ってしまっていた。


「公一?……公一!……こういちぃぃぃぃぃ!」
To be continued.
後書き 兼 言い訳
すいません!4話で終わりませんでした。
ごめんなさいm(_ _)m

最後に向けての話が長くなってしまったのでここで区切りました。

くわしい事は書きません。
ただ公一の気持ちはわかっていただけたと思います。

気楽にお待ち下さい。
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