「うっ……う〜ん……」
「公一?」
「?」
「公一?ねぇ起きて!」
「……琴子……」
「よかった……」
公一が倒れてから半日あまり。
公一はずっと眠っていた。
命に別状はないとわかってはいるものの、
目を覚まさない限り安心できないのは誰でもおなじ。
琴子は寝ずに公一が目を覚ますのを待っていた。
「琴子……光は……」
「さっき、おじさんがお薬を作って飲ませているはずだわ」
「そうか……」
「大丈夫、きっと大丈夫よ……」
「……光……」
「……」
しかし、二人の願いは裏切られてしまう。
The fifth story
Written by B
がらがらっ
「父さん……」
「おじさま……」
扉が開いて公一の父が現れた。
その表情は暗い。
「まさか……」
父は首を横に振った。
「なんでだよ!あれは万能の薬じゃなかったのかよ!」
「ああ、確かにマンドラゴラは万能薬の元だ」
「だったら……」
「私も万能薬を作って飲ませたんだが……一向によくならない」
「そんな……じゃあ、光はどうなるの!」
「……」
「そんな……」
光の病気が治らない。
そうなれば、光には「死」しか残ってない。
公一と琴子は絶望感でいっぱいだった。
「最後に一つだけ方法がある」
「なんだい、父さん」
「公一、おまえが光さんの側にいてやれ」
「えっ」
「公一、お前は光が好きだろ?」
「えっ……それは……」
「公一、私に遠慮しないで、正直に言って!」
「俺は……光が好きだ……今でも……」
「光さんも公一が好きだと聞いた」
「そうか……」
「もうお前達の絆に掛けるしかない、お前が光さんを勇気づけるんだ」
「わかった、最後まで光の側にいる」
「そうか、じゃあいってやれ」
「はい……」
公一は起きあがり、光の部屋へ行った。
部屋には公一の父と琴子が残っていた。
「……」
「水無月さん……すまないことをした……」
「いいんです……わかってましたから……」
「いいのか……」
「公一が幸せなら……いいんです……」
「……」
「……」
「光……」
光の部屋、そこには光がベットで寝ているだけだった。
顔は青く、衰弱している、しかし高熱で苦しい表情だ。
公一は光の側に近づく。
「あっ……こういちくん……」
光は公一に気づいたようだ。
「無理するな、何も言うな……」
「うん……」
公一は光の手をとった、とても熱い手だった。
「光、俺は今でも光の事が一番好きだ」
「……」
「これからも、琴子と結婚したとしても……」
「……」
「琴子にはすまないが、この気持ちは抑えきれない……」
「……」
「例え駄目だとしても心だけは一緒にいたい……」
「……」
「俺はわがままかもしれない……でもこれが俺の本心なんだ……」
すると光が声を出した。
「お願い……抱いて……」
「えっ?」
「抱きしめて……お願い……」
「わかった……」
公一は光の布団に潜り込み光を軽く抱きしめた。
「これで……いいのか?」
「うん……安心……する……」
「光が安心できるなら、ずっとこうしてやるぞ」
「うれしい……」
いつしか公一と光は見つめ合う。
「光……」
「公一……」
光は目を閉じる。
公一も何も言わずに目を閉じる。
やがて二人の唇が重なる。
そのまま二人はお互いの唇のぬくもりを感じ取っていた。
そして2つの唇が離れる。
「うつっちゃうよ……」
「移るんだったら、俺に移してくれよ」
「公一……」
「できることなら、俺が身代わりになるよ」
「ありがとう」
そして再び二人は抱きしめ合う。
今度は深く、強く抱きしめ合った。
そのとき、
「んっ!」
光の体がびくっとした。
「どうした、光!」
「いや……だいじょうぶ……」
「そうか……」
そして二人はまた強く抱きしめ合う。
「んっ!」
またもや光の体がびくっとした。
「おい、いったいどうしたんだ?」
「わからない……でも……だいじょうぶ……」
「そうか、じゃあ、今度はびくっとしないようにしてやるからな」
「うん……」
そういうとまた二人は強く、前よりも強く抱きしめた。
光のからだは、公一の力で動かない。
光の顔は公一の首元に埋もれていた。
しかし、やっぱり光の様子がおかしい。
なにやら、公一の体を嗅いでいるようだ。
「なあ、光、どうしたんだ?」
「わからない……でも、なにかにおいがする……」
「臭い?俺にはさっぱりだけど、さっきシャワーも浴びたし……」
「ちがうの……そんなんじゃないの……」
「じゃあ?」
「よくわからないけど……からだがむずむずする……」
確かに光の体が何かを求めているかのようにむずむずしているのがわかる。
しかし、公一はそれを無視して抱きしめた。
「光、落ち着くまで抱いてやるから、安心しな」
「ありがとう」
「嗅ぎたければ、ずっと嗅いでいいぞ」
「うん……」
そういうと、光は公一の首元を嗅ぎ始めた。
3分後。
光の様子がおかしい。
「ん……んっ……んっ……」
光が公一を抱きしめたまま、首、肩を異常に嗅ぎ始めたのだ。
「光、変だぞ、やめられないのか?」
「なぜなの……やめられない……」
「どうしてもか?」
「そうなの……嗅ぎたくてしょうがないの……」
「なんの臭いだ?」
「わからない……公一くんの体の中から臭うの……」
「?」
そして、5分後。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
光の息が荒くなってきた。
「どうした!光!」
「欲しい……」
「えっ?」
「欲しいの……」
「おい、光……」
「公一くんのが……欲しい……」
「なんだよ、い、いったい……」
「私にも……わからないけど……欲しいの……体が欲しがってるの……」
「えっ?」
「そんなはずはないのに……ちがうのに……欲しいの……」
「何が欲しいんだ?」
「お願い、私に公一くんの……ちょうだい……」
「わかった……好きなだけやるよ……」
「ありがとう……ごめんね」
再び光は公一の首元に近づいた。
そして……
カプッ!
「な、な、な、なにっ!」
なんと光は公一の首に噛み付いたのだ。
そして、
チュー、チュー、チュー……
「ひ……ひかり……いったい……」
光は公一の血を吸っていたのだ!
チュー、チュー、チュー……
「ど、どうして……光が……なぜ……」
光は夢中で公一の血を吸い出す。
体全体が欲しがっているかのように、吸いまくっていた。
「公一君!」
「公一!」
公一の声の大きさに公一の父、光の父そして琴子が駆けつけた。
そこで目にした光景は三人を驚かせるものだった。
ベットの中で公一と光が抱きしめ合っている。
そんなのは問題ではない。
問題なのは光が公一の首元に噛み付いて血を必死に吸っている姿だった。
そして噛まれた公一は顔が少し青ざめている。
「光……まさか……」
「そんなばかな……」
その直後、光は血を吸うのを止めた。
口を離し、顔を公一に向ける。
「光……」
「どうしよう……私もバンパイアになっちゃったかも……」
「どうして……光は人間だろ……」
「そのはずなのに……どうして……」
ふと見ると公一は光の顔の変化に気が付いた。
「あれ?光」
「どうしたの?」
「光……顔が普通の顔色になってる」
「えっ」
「熱はどうだ?」
「ええと……うそっ!……熱がない!」
「もしかして……」
「治ってる?」
「光……」
「公一……」
「やったー!」
「やったー!」
公一と光はベットから起きあがり喜びを爆発させる。
その様子をじっと見ていた3人も2人に近づく。
「光よかったな!」
「光、よかったね」
「お父さん、琴子……ありがとう」
「公一、よかったな……」
「ああ、父さんのおかげだよ」
5人が喜ぶなか、光の父が話を変えた。
「しかし、光はどうして血が吸えるんだ?」
「そうね?」
「もしかして……はっ!」
「どうしたの、父さん!」
「光さんの病状……もしかして……」
「どうなんですか渡瀬さん」
「この病状……我々バンパイアが血を長期間吸わなかったときに起きる禁断症状と同じ……」
「えっ……」
「光さんは人間だと思っていたから、まったく考えてなかったんだが……」
「確かに……」
「光さんが必死に血を吸う姿……あれはどう見たって……」
「じゃあ……」
「私、バンパイアになっちゃったんだ……」
「光……」
「うそ……」
公一と琴子が呆然としているなか、公一の父が光に語りかける。
「光さん、ちょっと集中してみて」
「うん……」
光は精神集中する。
「そのまま、宙を浮くようなイメージをしてみて」
「うん……」
「あれ?光、自分をみてみろ!」
「うそっ!私、浮いてる!」
すると、光の体が宙に浮かんでいたのだ。
「まちがいない、光さんは正真正銘のバンパイアだ……」
「ちょっと待てよ、光は人間じゃなかったのか?」
「確かに、光は間違いなく人間である私の娘だ」
「それが、光がどうして……まさか!」
人間である光が、バンパイアになる方法はただ一つ。
異性である男のバンパイアに血を吸われること。
「ちょっと待てよ、それでもバンパイアになるには10年かかるぞ」
「確かに、光が今バンパイアになるには、噛まれるのは8歳から前……!!!」
「公一!まだ光と一緒のころじゃない!」
「公一君。昔、光に噛み付いたことはなかったかい?」
「確かに、光とはよく喧嘩もしたけど……」
公一達が思案しているときに、光がつぶやいた。
「覚えてるよ……」
「えっ!」
「光……」
「確か公一君が引っ越す3,4日前だと思った……積み木で遊んでいて大喧嘩になったの、覚えてる?」
「確かそんなことがあったような……」
「あれが公一君とした一番ひどい喧嘩だった……殴って、蹴って、叩いて……そして噛み付いた」
「そういえば、光とした最後の大げんか……ああっ!もしかしてそうだったのかもしれない!」
「なんだって!」
「本当か!」
公一、光の父が驚いた。
「証拠だって……あるんだよ……」
「えっ……どこに」
「ここだよ……」
光は自分の肩を見せる。
薄くてよくわからないが、じっくり見ると歯形のあとが残ってる。
たしかに8歳ぐらいの小さな歯形だ。
「私、噛み付かれて、泣いたんだよ……」
「思い出した……俺が噛み付いて、それで光がずっとないてたんだ……」
「公一君が必死に謝ってくれて……すぐに泣きやんだけどね」
驚いた公一と光の父が話し合っていた。
「ねぇ、渡瀬さん、公一君はいつからバンパイアに目覚めたのですか」
「私が気づいたのは9歳の頃でしたけど……」
「もしかしたら8歳でわずかに目覚めていた、ということはないですか?」
「もしかしたら……そうかもしれない……」
「8歳で噛まれて、それから10年後……間違いないですね……」
「間違いありません……」
「皮肉ですかな……バンパイアの研究をしていたら自分の娘がバンパイアになったとはね……」
「すいません……」
「いいんですよ……」
「渡瀬さん、光は誰にでも認められるバンパイアですよね」
「はい……」
「公一君」
「はい?」
「責任……とってくれますよね?」
「えっ?」
「お父さん……」
公一と光にはさっぱりわからない。
琴子が光に声を掛ける。
「光!忘れてたの!」
「えっ?」
「光……公一と結婚できるのよ!」
「琴子……」
「公一の誕生日に、公一から結婚相手の指名を受けられるのよ!」
「うそ……」
「大丈夫、光はバンパイアだから、誰も文句は言わないわ」
そこに公一が琴子に呼びかける。
「でも……琴子は……」
「いいのよ、私は……遠慮はしないで……」
「琴子……」
「公一、あなたの一番の願いでしょ?いいのよ、私は」
「……」
「さっ、公一、光にプロポーズしてあげて」
「わかった……」
そして公一は光の前に立つ。
「公一くん……」
「光、俺と……結婚してくれないか……」
「えっ……」
「俺が光をバンパイアにさせちゃったんだよな……責任はとる……」
「……」
「いや、責任なんて関係ない。俺は光が好きなんだ!」
「公一くん……」
「だから……結婚相手に指名して……いいかな……」
「いいよ……公一君なら……喜んで指名を受けさせていただきます……」
「光!」
「公一!」
二人は感極まって抱きしめ合った。
「嬉しいよ……光と一緒になれて……」
「奇跡だよ……絶対に奇跡だよ……」
「俺たち……こうなる運命だったのかもな……」
「ううん、運命じゃない……私たちがつかんだ未来だよ……」
二人の父も表情が明るくなった。
「陽ノ下さん……いいんですか?」
「いいですよ……公一君なら光を任せられる」
「こんなことになってしまって……」
「確かに一瞬ショックでしたけど、光が幸せならいいじゃないですか」
「じゃあ今晩は」
「ちょっと早いですけど、婚約祝いですか!」
「そうとわかれば」
「準備ですな」
そういって二人の父は部屋から出て行った。
そして二人は気が付いた。
「あっ、琴子が……」
「いない……」
いつの間にか琴子がいなくなっていた。
To be continued.
後書き 兼 言い訳
すいません!5話で終わりませんでした。
ごめんなさいm(_ _)m
次回は確実に最終回です。もう書いたのでまちがいありません。
今回がクライマックスです。
詳細は最終回に書きます。
次回はエピローグ的になるかな?