光は10年前に公一に噛み付かれていた。
そして今、光はバンパイアに変貌した。
公一と光の結婚を妨げるものは何もない。
「そう、これでよかったのよ……」
琴子は一人神社にたたずんでいた。
神社の石段からひびきのの街をぼ〜っと眺めていた。
「公一と光は両想い、だからこれでいい……」
「そうよ、これでいいのよ……」
「私なんて、入る余地はないのよ……」
「なのに、どうして……どうして涙が出るの……」
「どうして……止まらない……」
「うわ〜〜〜〜〜〜っ!」
とうとう琴子は大声で泣き出してしまった。
The last story
Written by B
一人泣いている琴子に声が掛けられた。
「琴子!」
「光……」
そこにはいつの間にか光がいた。
「どうして光が……」
「だって私もバンパイアなんだよ……空を飛べるんだよ」
「でも……」
「公一くんから飛び方を教わったの……」
「なんでこの場所が……」
「公一くんが教えてくれた……琴子は絶対ここにいるからって……」
「それで、なんなの?」
「琴子に……謝らないといけないから……」
「えっ!」
「ごめん……公一くん……奪っちゃって……」
「そんなことない……最初に奪ったのは私よ……」
「でも、結婚直前で私がバンパイアになって、婚約……私が奪ったも同然だよ」
「……」
「琴子……公一くんのこと……本気だったんでしょ?」
「えっ?」
「琴子の声……聞こえたんだよ……公一くんが好きだって……」
「そうよ……私も公一が好き……」
「……」
「でも、光にはかなわなかった……」
「……」
「だって、私が公一の婚約者になるはるか前に、光は公一と結婚する運命だったんだから」
「……」
「だから私に気を遣わないで、遠慮はいらないわ……」
「琴子……」
「気を遣われたら……私がみじめになるだけじゃない……」
「わかったよ、琴子。私、公一くんと結婚する」
「光……」
「琴子に後悔させないように幸せになる」
「それでいい、それでいいのよ……」
「琴子……」
「光」
「なに?」
「これで最後だから……お願い……泣かせて……」
「いいよ……」
「うわぁぁぁぁぁっ……」
琴子は光に抱きついて泣いた。
「バカ……公一のバカ……」
「光という子がいながら……10年前から手を出しておいて……」
「どうして……どうして、私を本気にさせたの……」
「私は……公一に本気だったのよ……」
「気が狂うぐらいに……公一が好きだったのに……バカ……」
「私は……どうすればいいのよ……」
思いをぶちまける琴子。
それをじっくりと受け止める光。
そして琴子が泣きやむまで抱きしめあったままだった。
そして琴子が泣きやんだ。
「光、ありがとう」
「そんなことないよ……」
「じゃあ、私はこれで……」
「琴子!」
「なに?」
「学校で公一くんに話してあげて」
「えっ?」
「公一くんも辛い思いをしてるはずだから……琴子に謝りたいと思ってるはずだから……」
「わかったわ……」
「光」
「なに?」
「今度……光の血、吸ってもいいかしら?」
「うん、了解了解!」
「うふふ……」
「あはは……」
琴子は笑顔を見せて飛び立っていった。
そして次の日の朝。
廊下で公一と琴子がばったりと出会った。
「琴子……俺……」
「いいのよ……あやまらなくていいわ……」
「……」
「公一、光を泣かせたら承知しないわよ……」
「ああ、琴子に誓うよ……俺は光を幸せにする……」
「よかった……」
「ねぇ……最後に一言だけ言わせて……」
「いいよ……」
ばちん!
「公一の大馬鹿野郎!」
琴子は強烈は平手打ちをお見舞いして走り去った。
「琴子……ごめんな……」
これ以降、学校では公一と琴子が会話をすることは無かった。
それは琴子なりのけじめのつけかただったのだろう。
そして公一と琴子の結婚の「噂」は消滅し、
代わりに公一と光の結婚の「事実」が学校中に広まることになる。
そして、公一の誕生日。
公一は迷わず結婚相手に光を指名した。
バンパイア一族のトップは聞いたことのない名前に驚いたが、
調べると正真正銘のバンパイアであることが認められたので二人の結婚は承認された。
そして1ヶ月後。
公一と光は結婚式を挙げた。
二人はまだ高校生だったので親に資金を前借りしてもらった。
そして、親戚、ご近所、クラスメイトを交えて盛大に結婚披露宴も行った。
みんな二人の結婚を祝福した。
しかしそこに琴子の姿はなかった。
招待状は出した、しかし欠席の返事が来た。
「昔の恋人に招待状はだすものじゃないわよ」
という一文を添えて。
二人ともわかっていた。
まだ琴子の心の傷は癒えていなかったのだと。
そして、時は流れて卒業の日。
公一と琴子が久しぶりの会話を交わした。
「卒業おめでとう……」
「卒業おめでとう……」
「琴子さんと話をするの……ひさしぶりだな……」
「そうね……公一くん」
前は呼び捨てだったがのくん付けで呼ぶのは、二人なりのけじめである。
「公一くん、おめでとう」
「えっ?」
「光……おめでたですって?」
「ああ、ちょうど3ヶ月って……なんで知ってるの?」
「光から1週間前に教えてもらったわ……とても嬉しそうだった」
「ちょっと待て、俺は5日前に教えてもらったぞ……光の奴……まあいいか」
「光らしいわね」
「そうだな」
「うふふ!」
「あはは!」
(琴子……やっと癒えたのかな……そうだよな、俺と話してるんだからな……)
「ところで公一くん」
「なんだい琴子さん」
「6月の第1週の土日……空いてる?」
「たぶん空いてるけど……えっ!まさか!」
「さて……どうかしらね?」
「本当……なのか?」
「それはお・た・の・し・み♪」
(琴子、えらく明るいな……もしかして……)
それから3週間後。
琴子から公一と光に結婚式の招待状が届いた。
「昔の恋人としてじゃないわ、友達としてよ。勘違いしないでね」
という一文を添えて。
そして6月。
「琴子!おめでとう!」
「琴子さん!おめでとう!」
「ありがとう、光、公一さん」
今日は琴子の結婚式の日だった。
式の直前、新婦の控え室。
正装の公一とマタニティの光の前にはウエディングドレス姿の琴子。
「琴子さん……とても綺麗だよ」
「本当……素敵……」
「褒めても何もでないわよ……」
「そんな意地張っちゃって、素直によろこびなよ」
「光、ありがとう」
公一も光も絶対に式は神道だと思っていたから驚いた。
話を聞くと新郎の希望らしい、そして琴子は何も文句を言わなかったそうだ。
恋するとこんなに変わるのかとまた驚いた。
話を聞くと新郎は琴子の幼馴染みだそうだ。
琴子より1学年下、
誕生日は4ヶ月しか違わないのだが、琴子にとっては弟のような存在だったそうだ。
その男性は昔から琴子が好きだったらしい。
でも、琴子は弟の存在としてしか見ていなく、なおかつ公一の婚約者だったので気にしてなかった。
それが公一との破局で変わった。
傷心の琴子を慰めたのは、その男の子だったのだ。
卒業までに立ち直ったのは彼のおかげだと琴子は語った。
そして卒業直前。
琴子は突然プロポーズされた。
「俺……渡瀬先輩に比べて未熟だけど……俺、琴子を幸せにしてみせる!」
「渡瀬先輩に負けないぐらい琴子を幸せにする……だから俺と結婚してください!」
琴子は彼の言葉を受け入れたのだそうだ。
そして4月、彼の誕生日に結婚相手に指名されたということらしい。
「光、子供は順調?」
「うん、だいぶ大きくなったよ」
「いいなあ、子供って……私もさっそく作ろうかしら?」
「いいねぇ、じゃあ、私の子と琴子の子が違う性別だったら婚約させようか?」
「あら、それはいいわねぇ」
「俺たちと琴子が親戚か……いいかもな」
「でも光の子が男の子だったら心配だわ」
「どうして?」
「好きな人間の女の子に噛み付いて結婚の予約しちゃうかも」
「琴子さん……それって……」
「ええ、公一さんの事よ……」
「琴子〜、冗談きついって、勘弁してよ〜……」
「うふふ、冗談よ……」
「琴子さん……」
「公一くん……」
「俺には言葉で祝うしかないけど……」
「……」
「直前に琴子さんを振ったどうしようもない俺だけど……」
「彼はあなたに負けないくらいいい男性よ……安心して……」
「そうか……幸せにな……」
「ありがとう……」
「琴子!時間だって」
「それじゃあ、先に行ってて」
「うん、席で待ってるね!」
「こら!急ぐなよ、転んで子供になにかあったらどうするんだよ!」
「ごめ〜ん」
「うふふふ!」
「あははは!」
「あははは!」
こうしてそれぞれの幸福をつかんだ、公一、光そして琴子。
おなじバンパイアの一族として、
いや、そんな人間とかバンパイアとか関係ない3人の友情がここにある。
まだ18歳の3人。これからどんな人生を歩むかわからない。
しかし、この友情は決して消えることはないだろう……
前途ある3人の未来に幸あれ……
To be continued.
後書き 兼 言い訳
これにて「Vampire」は完結です。
4話予定のはずが6話までかかってしまいました。
いやあ、エンディングって初めてだったので悩みました。
うまいエンディング。
有終の美、終わりよければ全てよし、ということでしょうか。
連載ものの最後は非常に大事だと思ってます。
それ故にうまい着地点を探しまくっていました。
今回はこんな感じで終わらせましたがどうだったでしょうか?
今回のトリック。
第5話で書きましたが、
「すでに光はバンパイアになっていた」
というある意味「オチ」という展開を使いました。
第1話の長い説明はこれに持ち込むための前振りだったわけです。
あれだけ書けばある程度オチが読まれるとは思いましたけど(汗
まあこのSS、光が血を吸うシーンが思いついたから書いてしまったわけなんですけどね。
しかし、これは本当に大変だった……
クライマックスから最後が長くなるし、
途中でネタを見破られて焦ったし、
どうなることかと思いましたが、なんとか終わらせることができました。
いやぁ、連載が一つ減るって気が楽になります。
これで他の連載に力を入れることができます。
短いSSは短いなりに難しいところがあり勉強になりました。
最後まで読んで頂いてありがとうございました!