太陽の恵み、光の恵 外伝
第3集 同棲日記〜奈津江と勝馬〜
その5 引越
Written by B
「さっきの相合い傘の後あたりであの話があったの?」
「そう……勝馬が恵と相合い傘で帰って、あたしがすごくショックだったときに……」
「引越でしょ?」
「もうびっくり、というよりもショックだった。それは自分でも意外で」
「それが何かを考えたら……」
「……勝馬の存在だったということ」
7月◇日 晴れ
どうしよう……
両親から突然話を聞いた。
転勤だって。
きらめきからは遠く遠く離れた場所。
何年もの長期になるから本格的に引っ越すって。
1学期いっぱいで引越しなくちゃいけない。
転校、編入はできるらしいが……「どうする?」って言われてもどうすればいいのよ!
7月○日 くもり
昨日は寝られなかった。
学校でも授業は耳に入らないし、部活でも精細を欠いた。
クラスでも部活でも言われた「どうしたの?」って。
そして勝馬から言われた「奈津江、どうしたんだ?」って。
「なんでもないわよ!」って強情張っちゃったけど……なんでもないわけないじゃない!
言えない……引越しなくちゃなんて。
お別れしなくちゃなんて……言えない!どうしても言えない!
7月△日 晴れ
休みに勝馬を起こしたら……勝馬の顔を見て泣いちゃった。
私、バカだ……こんなに私が動揺している理由に今頃気づくなんて。
このまえの恵のことでショックを受けた理由に今頃気づくなんて。
私、勝馬が好きなんだ。
私が起こさないと起きないどうしようもない奴だけど。
やればすごいのに何もやる気を出さない奴だけど。
何でなのかわからないけど。
それでも私は勝馬が好きなんだ。
なんで、今頃気づくのよ!
もうお別れしなくちゃいけないのに!
どうして!どうしてなの!
どうしよう……
「芹沢くんが好きな事に気づいて、号泣しながら日記に書いたのよね」
「えっ?なんでそんなことわかるのよ」
「だって字がにじんでるわよ」
「詩織、そういうところは鋭いんだから……」
「でもなんで芹沢くんが好きなのかが書いてないけど?」
「好きだってことは気づいたの。でも、なんで?ってことにはまだ気づいてないの」
「なんか好きな理由ってあるの?」
「いや、実はこれと言ったのはないんだけどね……詩織もそうでしょ?」
「ええそうよ」
「でも、それすら気づいてなかったの……だから一時期勝馬とボロボロになりかけたんだけど……」
「えっ、そうなの!」
「うん、どうせこの先の日記も見てわかっちゃうから先に言っておくけど」
「知らなかったわ」
「知らなくて当然よ。詩織って、その時期他人のことより自分のことで精いっぱいだったでしょ?そのころはあたしも詩織に相談してないし」
「あっ、そういわれればそうね」
「それでも、ここで自分の気持ちに気づいたわけね」
「そうよ。もうすぐみんなと別れなくちゃいけないって状況になってよ。みんなと別れたくないって気持ちが強くてショックだったんだけど、段々と一番別れたくないのが勝馬だって気づいて……『大切な物はなくしてから気づく』って言うけど本当なのよね」
「それは私も同感」
「ところで、そんなに奈津江ちゃんがおかしいのに芹沢くんはどうだったのかしら……たぶん書いているはずだけど……」
「それ、すごく気になる……」
7月○日 くもり
奈津江がおかしい。
なんか思い詰めたような顔をしている。
聞いてみたが「なんでもないわよ!」って返した。
あいつ、そんなんでごまかせたと思ってるのか?
いったい俺と何年付き合ってると思ってるんだ。
思い切り悩んでいるのはバレバレだぞ。
さらに聞いてもよかったけど、あいつは間違いなく意地張って否定するからな……
本当にどうしたんだ?
7月□日 晴れ
十一夜と買い物に付き合う約束をしてしまったので、行ってきた。
バスケ用品ということだったはずだが、なぜか服とかアクセサリーとか一緒に見ていた。
十一夜は楽しそうだが、俺はちっとも。
それよりも奈津江のことがどうしても気になる。
最後に寄った喫茶店でも十一夜と奈津江の話になった。
「何か知ってる?」と聞かれたが俺が知りたいぐらいだ。
「あら?恵ちゃん。芹沢くんとデートしてたんだ」
「うそ……」
「知らなかったの?」
「知らなかった……自分のことで精いっぱいだったから……そこまでしてたなんて……」
「芹沢くんもデートとは思ってなかったみたいだけど」
「うん、それだけは安心した」
7月△日 晴れ
朝起きてみたら、奈津江が泣いてた。
突然の事だったし、奈津江が泣いているのなんて何年ぶりかだったから余計に驚いた。
「どうしたんだ?」って慌てて聞いたら、「聞かないで!」って逃げるように帰っちまった。
おいおい、奈津江、いったいどうしたんだよ?
奈津江が泣くなんてよほどのことだぜ?
頼りないかもしれないけど、俺なんかでもいいのなら相談にのるぞ。
明日聞いてみるか……こうなったら嫌でも言わせてやる。
「芹沢くん、かなり心配してるわよ」
「うん、すごく嬉しいけど……勝馬だから相談できないんじゃない」
「そうね。だから私に相談したんでしょ?」
「そういうこと」
「それで、この翌日芹沢くんに聞かれてなんて答えたの?」
「『聞かないで!』の一点張り……さすがの勝馬も何日も聞いてきたけど……結局勝馬が諦めちゃった」
To be continued
後書き 兼 言い訳
いよいよ話の本題に入ってきました。
ものすごく短いからさっさと話をすすめろと言われそうですが、短いなりにどこの場面をピックアップすればいいか難しいんですよ。
次はあの人が絡みます。